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メイドと会話

 優秀な人だけど、この人アレだな……うん、あんまり関わりもっちゃ駄目な人だな、たぶん……


「も……」

「わかったわ! 認めます」


 申し訳ないけど遠慮します。そう言おうとしたら、母親が被せるように声をだす。


「お母さん?」


 あんた何言ってんの? 心の声で問いかける。


「いつも思っていたのよ、琥珀君に警護の人を付けた方が良いんじゃないかって。ほら、いつ琥珀君のかわいさにやられた、女供が襲ってくるかわからないじゃない? その点、第一級護衛官が琥珀君に仕えてくれるなら安心じゃない」

「奥様のおっしゃる通りです。琥珀様の美しさはこのアーヘンハイム全土を見ても比類無い程です。奥様のおっしゃった危険もいつ襲ってくるかわかりません。その様な危険は、不肖、この鋼城が全力を持って排除いたします」

「うんうん、そうよね」


 母親と鋼城さんは二人で意気投合し盛り上がる。


「いやっ! ちょっと待って。四六時中、護衛なんかつかれたら、たまんないから! お断りします!」


 ここはキッパリと言わないと耳を貸さないと思い、はっきりと嫌だと言っておく。

 俺のその言葉に、鋼城さんはショックを受けたように青ざめていく。


「でも、琥珀君、他の家でも年頃の息子さんには、専用の護衛を付けるのが普通なのよ……。学校の行き帰りぐらいならまだしも、遠いところに遊びに行くってなったら、心配でどうにかなっちゃうよ……、私がついて行ける時はついて行くけどね!」

「いや、ついてこないで下さい」


 ガーンと俺の言葉にショックを受けたように顔を曇らす母親。


「だったらなおさら護衛を雇わないと……」

「くっ、でもそうすると家事はどうするつもり? だいたい護衛じゃなく家事をやって貰う為に、雇うつもりだったんじゃないか」

「それなら、基本的には家事をして貰って、必要な時だけ護衛の仕事をして貰いましょう。それだったら何も問題ないわ」

「はい、家事に関してもご満足頂けるように、修行を重ねてきましたので何とぞお願いいたします」

「ほら、鋼城さんもこう言ってるし、第一級護衛官なんて普通じゃ雇えないのよ」

「仕えることが許されるなら、今の会社には本日退職を願い出してきます。そして琥珀様の事を第一に考える様にお仕えいたします」

「すばらしいわ!」


 母親は鋼城さんの宣言に感激している。

 もう既に、何があっても雇う気である事がわかる。


 俺は一つ溜め息をつくと、了承の返事をする。


「わかった。鋼城さんが優秀なのは理解したし、ここまで熱心に思ってくれるのも有難いことだし……」


 少し溜めを作り、目を見てしっかりと言う。


「これからお願いします。鋼城さんが仕えて良かったと思う、主人になれるように俺も頑張ります」


 そして、学校で効果抜群だった微笑みを鋼城さんへ向ける。

 その微笑みを向けられた、鋼城さんは銀色の美しい瞳から一筋の涙を流していた。


「ありがとうございます。そのような優しいお言葉を男の方からお掛け頂いた事は有りません。そしてその様なお言葉を、生涯仕えると決めた御方から頂いた事に、今までの私の人生に価値が有ったと思うことが出来ます。琥珀様の思いに報いるために、誠心誠意仕えることを誓います」


 涙を流しながら頭を下げた。


 そこまでか! なんか重すぎだよ、社交辞令とかって言葉この世界でもあるよな……


 俺は自分の言葉の重みに恐々としつつ思う。


 ……ノリが既に現代的じゃないな。騎士とか武士とかそう言った時代のノリじゃないか? 

 ……いや、メイドだから良いのか。いや、知らんけど。


「じゃあ、後は待遇面の話をするから、琥珀君は部屋に戻っててね」

「へ、なんで?」

「良いから良いから」


 そう言い母親はぐいぐいと身体を押してくる。


「わかった、わかったから。押さないで、椅子から落ちる」


 何故聞かせたくないのか、秘密裏に何か頼み事をするのか? まぁ良いか。

 そう思い、自分の部屋に戻る。


 部屋に戻り、ソファーに座りさっきの事を考える。


 誰かに襲われるか……、アーヘンハイムは治安の良い国だから、あまり気にしなかったけどそう言ったことも起こる可能性は十分有るのだ。


 鋼城さんが来るようになったら、護身術でも教えて貰えるかな? もし教えて貰えるならお願いしよう。

 そうすれば、一人で海外旅行とかも許して貰えるだろう。 


 ……貰えるよな。





 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「さて、鋼城さん、さっきまでの会話でわかったと思うけど、琥珀君は自分に対しての危機意識が薄いの」

「はい、そのようですね。私のような得体の知れない女に対しても優しく接して頂きました。こんな経験は初めてです。今迄ですと、無視か侮蔑の目で見られる事しか無かったので」

「琥珀君も少し前まではそんな風だったわ。女を見ると凄い警戒していたんだけどね、今は全然そんなこと無いのよ。別に悪いことじゃないと思うけど。やっぱり変な女に騙されないか心配なのよ」


 洋子はお茶を一口のみ続ける。


「だから鋼城さん、貴方にその辺気をつけて貰いたいの」

「もちろんです。琥珀様の様子に気を付け変わったことが有れば、即報告いたしますし、排除が必要とあらば相応の措置を執らせて頂きます」


 目の前のメイドの鋭くなった目を見て、洋子は満足したかのように頷いた。




















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