決意の日
夏の日差しが絶え間なく襲ってくる。大型スクリーンに映し出されている気温は三十九度、今年一番の猛暑日だ。こんな日の外回りの営業はかなりつらい。何よりも三日間、完徹でありとても眠たい。それもこれもこんな会社に入った自分が悪いんだ。別になんていうこともない普通の人生だった、大学で遊び呆けて、入社した会社がブラックだったのも、昨今の日本では良くあることだ。両親が既に他界し、頼るべき親類も居ない。従って仕事を辞めるに辞めれない。給料は安く、貯金も無い。仕事が忙しすぎて転職活動も出来ない。
「詰んだか……」
睡眠不足な頭で、ぼんやり考える。だからだろうか。周りの絶叫にも気づかずに居たのは、そして異変に気づいた時には自分の身体はぐちゃぐちゃに潰れていた。
「トラッ……ク……」
顔のすぐ前にトラックのフロントがあり、中には動いていない運転手が見えた。
ようやく自分が引かれ、ビルの壁とトラックに押し潰された事に気がつくが、痛みはもう感じなかった。
「まぁ……、しょ……うがない……」
ゆっくりと目を閉じる。
「いっ……ぱい……、ねる……か……」
そうして、俺は眠りにつき、人生を終えた。
……って言う事を思い出した。
「なんて言うか……、ロクな事がない人生だったな」
自分の前世を思い出しての第一声がこれなくらい良い事が無かった。
「痛っ!」
ズキリと頭が痛む、そういえばと周りを見渡す。
知らない場所だ、でも何処かはわかる。……病院だ。
自分は今まで病院のベッドで寝ていたんだ。
なんでこんな所にいるのかと言うと。
学校で階段から落ちたからだな、足を滑らせたんだ。
うん、前世の記憶を思い出したからって言って、今世の記憶が無くなった何て事はないな。
ということは、階段から落ちて、頭を打って記憶が戻ったって事か、本当にこんな事あるんだな……。
しかし、前世の自分、良い事無さすぎたな。
やっぱ、あれか、勉強とかあんまりしなかったからか、ていうか努力をしなかったからか……。
それを考えると今は……、いや全然、努力とかしてないわ。
でも、それは今世の世界のせいだと思うんだ。
今世の世界は男性の数が少なく、前世では考えられないほど男性が優遇されている。どれくらい少ないかというと、おおよそ女性の二十分の一だ。……前は思わなかったけど、良く人類滅びなかったな。
この数字は過去の歴史に比べると大きくなっているらしい。
その為、昔から男性は保護される対象とされ、手厚い給付金が支給され、働かなくても生きていけるのだ。”男に生まれたら勝ち組”そんな言葉もあるぐらいだ。
だから、男はすごい甘やかされて育ち、女性を見下す性格に育っていく。
実際に俺の性格も悪かったからな、前世の記憶がある、今だからこそわかるけど、前の自分は母親に対して、お母さんなんて呼んだこと無かったからな、呼ぶときは、”おい”とか”ねえ”とか呼んでたな。
「ないわ~」
思わず声に出してしまう程である。
……改めよう。前世の価値観がある今の自分には、到底認められる物じゃない。
前世の両親は大学卒業前に亡くなったから、親孝行も出来なかったからな、こっちでは出来るだけ親孝行をしてあげたい。
あと、勉強もしないとな、今度は三流の大学じゃなくて、一流の大学に行きたいな。そうすれば、良い会社に入れる可能性も大だしな。いくら国から金が貰えるからって言っても、無職の肩書きはイヤだしな……。
この世界の男の大半は働かない。国からの支援と女性から貢がれるからだ。俺も記憶を思い出さなかったら、絶対に働かなかっただろうし。でも今は、無職の肩書きに凄い恐怖を感じる……。
あとは女性関係か……、この世界は不思議なくらいに前世と似ている部分がある、パソコンやスマートフォン何かの通信機器も同じだし、食事だってそうだ。有り体に言えば、全く違う世界と言うよりもパラレルワールドに生まれ変わったと言った方が近いかも知れない。もちろん成立している国の名前は全く違うが……。
大きく違うのは、男女比、人間の髪の色、そして女性の顔面偏差値だ!
髪の色は色とりどりで、金髪や黒はもちろん、ピンクや緑、中には虹色の髪なんてのもある。
そして、女性の顔面偏差値である、これが異常に高い。いや、今までは気にもならなかったけど、前世の記憶がある、今だからこそ言える。
この世界は美人ばっかりだ! もちろん、かわいい子、綺麗な子等、色々居るが総じて容姿が整っているのである。おそらく、古代から男性に選ばれたのは、美しい人ばかりだったんじゃないかと思う、そうした生存競争で、容姿の優れた人が選ばれ続け今に至るのだろうと思う。
……でもそうすると、男性も容姿が良いはずなんだけど、何というか……それ程、顔が良い人が居ないんだよな。何でだろう? いや、まぁ良いけど。だって俺の顔はかなり顔面偏差値高いし。容姿の優れた女性達と比べてみても、かなり優れているぐらいだ。
……まぁそのせいで、男も女も全てを下に見ていたけどな。ちなみに中学の自己紹介で俺が言ったことは、
「どいつもこいつも醜いな、馬の糞でも塗りたくれば、少しはマシになるんじゃないか。」ですよ。
信じられます? これ俺が言ったんですよ。どんだけナルシストなんだよと思いますよね。びっくりですよね!
なにより自己紹介で紹介していません、ただ罵倒しただけです。自分のありえなさに思わず敬語になるぐらいですよ!
でも、こんな中二病入ったヤツでも、男と言うだけで大事にされる世界だ。はっきり言ってこの世界は、男に生まれたらイージーモードだ。何にもしなくてもお金が手に入り、女性からちやほやされる。
しかし、だからこそ! よりよい暮らし、よりよい異性を手に入れる為に、努力をしなければ駄目になる!
よりよい暮らしのために努力するはわかる。勉強を頑張り、良い会社に入るか、自分で仕事を興すかをすれば良いのだ。……しかし、よりよい異性を手に入れる為に何をすればいいのか、肌の手入れか? ファッションの研究か? それとも料理とか家庭的な事か?
…………いや、おそらく全て正解だろうが、それよりも必要な事がある。
それは、振る舞い方だ! 思わせぶりな態度を取って異性を手玉に取る。そんな技術が必要なのだ。
ええ、前世でもいましたよ! 思わせぶりな態度で、男を手玉に取り、意のままに動かす女性が!
そして、金持ちでイケメンの男を、取っ替え引っ替えしていましたよ。
その女性はこう呼ばれていました。
”魔性の女”と
ならば自分は目指さねば駄目だろう、
”魔性の男”を……