彼女の不安
これから三人称で進みます。
朝。侍女が起こしにくるよりも早く、カレンディラは目覚める。寝起きは悪くないけれど、いつも一瞬だけ、全て夢だったらなと淡い期待をしている。でもそんなものはあっさり崩れて、彼女は侍女が来るまで寝台で丸くなる。その方が、『カレンディラ』らしいから。
その間考えるのは、その日の予定。今日は王太子から呼ばれてる、とか、マリーシアからの手紙で知らされている指定日、だとか。その二つが重なっている日はエリエーデには会わない。一日でこなすにはハードすぎるから。
はたして。わたくしはどこへ向かっているんだろう。
自分行動がそろそろ意味のないことだとカレンディラは気付いていた。ジークセイドは念願のルルーシュと恋人になり上手くいった。マリーシアだってナツキから愛を得た。エリエーデも周囲の人に受け入られた。
もう、いいじゃないか。
『悪役』を始めて、カレンディラはあなたのためならと思って頑張ってきた。しかしそれでも時々無性に、ここではないどこか。誰も自分を知らないところに行きたくなるときがあった。そこはカレンディラが『悪役』だったことを誰も知らなくて。頑張る必要のないところに。
ふとノックが三回。侍女が来た。
「おはようございます、カレンディラ様」
何も言わず、起き上がる。侍女は無言で、カレンディラの支度をする。
メイクをするさい、特に目元はキツく仕上がるようにする。選ぶドレスは濃い色のもの。本当は、赤は苦手だけど。
鏡の中に出来上がった『カレンディラ』が映った。胸中唱えるのは、「私は女優」。
さあ、今日も頑張ろう。鏡の中のカレンディラが、悪役に相応しい顔で微笑んだ。
今日は王太子に呼ばれてる。きちんと邪魔をしたあと、尋ねよう。
わたくしはあとどれくらい、これを続ければいいのか、と。