灰かぶり展開
パシャリ。軽快な水音。ポタポタと己れの髪から滴る水に、少女は青い目を潤ませる。
「目障りですの。どこかへ消えてくださる?」
水を垂らす少女にそう言ったのは、水瓶を持った亜麻色の髪の少女より少し年上の女。柔和な笑顔からは丁寧な口調の罵詈が漏れた。
「……はい、お姉様」
「気安く呼ばないでくださる」
女は冷たく少女を見据える。少女は身をすくませて、小さくはいと言った。
それを見ると、女は踵を返した。それを見送った少女は、静かに声を押し殺して泣いた。
「わたしだって、好きでこんな出自に生まれたわけじゃないわ……」
ポロポロと涙を零す彼女に、そっと寄り添う影が一つ。影は慰めるようににゃおん、と鳴いた。
「……お前だけね、わたしをわかってくれるのは」
少女はくすっと笑って、白い猫を撫でた。
そんな様子を遠目に見ていた使用人は、その日。目を赤くして他の使用人にも話した。
「またカレンディラ様がエリエーデ様に嫌がらせしていたわ」
「飽きないわねえ、カレンディラ様」
「まあ、生粋の貴族としては、嫌なのかもしれないけどさあ。同じ腹から生まれたんだから、ねえ」
「血だけよくても、カレンディラ様は狭量だから」
「エリエーデ様いい方なのに。可哀想」
「学園ではカレンディラ様もカルロ様もいないから、充実した生活を送っているそうよ」
「それはよかったわ! お優しい人ですものね」
エリエーデ・ユシュアン。ユシュアン公爵家令嬢であるが、実は公爵家の血は一滴も流れていない。その出自は、亡くなった公爵夫人の不貞により生まれたどこの馬の骨とも分からぬ者の血を引く。しかし愛する人の子だからと公爵に引き取られた。だが、公爵家の血を引く二人の子供は、エリエーデにいい顔をしなかった。特に姉となったカレンディラは。
家の外での中でも、カレンディラはエリエーデに会うと嫌がらせをする。無視すればいいのに、わざわざ絡み嫌みを言う。そんなカレンディラは、自然と屋敷の使用人から嫌われた。彼等は皆、優しくて努力家なエリエーデが好きだったから。
エリエーデの兄カルロも、カレンディラほどではないがエリエーデを嫌っていた。エリエーデの姿を見るだけで舌打ちし悪態をつく。本来は温厚なカルロは、カレンディラの悪い影響でそういう態度を示しているのだと、他の誰も疑っていない。
そんな同じ腹から生まれた姉と兄に憎まれるエリエーデは、しかし学園ではとても上手く行っている。カレンディラとカルロとは違う貴族の教養学園に通うエリエーデは、守ってくれる人たちに出会った。そして幸せに暮らしていた。
エリエーデを守る人々は、それはそれはカレンディラを嫌っていた。いつか報復を誓い、我らが姫を助けようという企ては、水面下で確実に進んでいた。