王道展開
主人公は恋愛しません。恋愛してるのは周囲です。
誤字を修正しました。
色とりどりの花が咲き乱れる、美しい庭。その中心、ポツンと置かれたベンチに、二人の人物が座っていた。男と、女。向かい合い互いの手を握って、微笑むその様子は、二人が深い仲であることを示唆している。
そこは少し背の高い木々に囲まれているので、外からは見にくい。だからだろう。野外であるのに、二人は甘い雰囲気を醸し出していた。
囲まれている、と言っても全く見えないわけではない。場所によってはその姿が隙間から見えている。しかしたとえ見つけたとしても、多くの人はその姿を見て素直に目をそらす。年配の者は若いと苦笑しながら。相手のいない者は舌打ちをしそうな形相で。各々色々な反応だったが、誰一人としてその空気を壊そうとする者はいなかった。それは二人があまりにも、幸せそうだったからかもしれない。
そんな二人に、何を思うのか。近付く影が一つ。それを見つけギョッとする者がいたが、しかしその影の姿を改め、何も言うことはなかった。影は亜麻色の綺麗に巻かれた髪を靡かせながら、迷いなく幸せそうな二人に近付いて行った。
「こんなところにおりましたのね」
影は立ち止まって、一言。その言葉に、手を取り合っていた二人はパッと手を離した。そして二人ともが、声をかけた影ーーー妙齢の女性を見た。男の方は苦々しく、女の方は恐怖の混じった憎しみの表情で。
「……なにをしにきたカレンディラ」
「殿下を呼びに参りましたの。大切な公務をすっぽかして、どこぞにふけてしまった」
カレンディラと呼ばれた女性は、にっこりと微笑んで言う。優しそうな笑みとは裏腹に、その言葉には棘が含まれていた。
「……なんで貴女が呼びにくるのよ。たかだか公爵家の令嬢のくせに」
男の隣に座る女が、口を開く。普段はおっとりと垂れている大きな目は今はきりりと釣り上がり、カレンディラを睨みつけていた。その様子に、カレンディラは目を細めた。
「その公務は、殿下とその婚約者、たかだか公爵令嬢のわたくしが行うと陛下が決めたのですわ。陛下の決定に異を唱えるほど、偉くなったおつもりですか。ねえ、図に乗って自分の立場を忘れてしまった伯爵家の令嬢さん?」
「カレンディラ。分かった。すぐに行くから。これ以上ルルを虐めるな」
カレンディラの言葉に、女は唇を噛み締めて、しかし懲りずにまた睨みつけた。それを見た男ーーー殿下は、女を庇うように前に出た。
「まあ、虐めるだなんて人聞きの悪い」
「それ以上言うな。不快だ」
「まあ」
カレンディラが眉根を寄せる。しかし殿下はそれを無視し、女の頬に素早く唇を寄せて「またあとで」と囁くと歩き出す。カレンディラは静かにその後を追った。
「ジークさまっ」
引き止めるような女の声に、殿下は一度だけ振り返る。
「いってらっしゃいませ!」
女の声に殿下は蕩けるように笑った。
それを見ていたカレンディラは。一人静かに佇んでいた。
王太子ジークセイドと婚約者である公爵令嬢カレンディラ。けして悪くなかったその仲に亀裂が入ったのは、王太子の恋人伯爵令嬢ルルーシュが原因である。
城内ではジークセイドとルルーシュの逢引の様子があちこちで目撃された。そしてそれらは全て。カレンディラにより妨害されていた。
現在。泥沼と化したその様子は城で多数目撃されている。