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レビは逃げ出すことすらできず、その場に立ち尽くした。逃げられない、どころか、逃げても無駄だと思ってしまった。生きている限り死から逃れられないように、死神の姿をした男から逃げ切ることは不可能なのではないか、と。
「何にも臆さず、一片の感情も見せず、一太刀で相手を殺める娘がいる、と」
繋がりが、見えない。
男の話を理解するための、知っている前提として話されている知識を、レビは持っていないようだった。死神のような男と、おそらくはレビが使っている──というよりは、レビに使われている魔術の間には、繋がりがある。
それを知らないから、レビには男の話が繋がっていないように聞こえてしまう。
「殺しの動機など問わないが、オリジナルを作った人間が模倣の理由を知りたいと言っていてな」
「オリ、ジナル?」
掠れた声で、再度問う。
前提として必要な知識。それがなければ、レビは男と会話を成立させるどころか、男の話の半分も理解できない。
かろうじて分かることといえば、レビに使われている魔術が何かを模倣したものだということくらいだろうか。
しかし、分からない。魔術の象徴を模倣することによって生じる利益は何もないのだ。
魔術に必要なのは意志と象徴。どちらかが欠けてしまえば、意志はただのココロだし、象徴はただのモノでしかない。意志をもって象徴を選ばなければ最大限の成果はあがらないし、象徴をもって意志を補助しなければ思いは形にならない。
「まぁ、誰にでも使えるものとして、普遍的な意味を持つ象徴ばかりをかき集めていたようだから模倣も容易だっただろうがな。二二の役割に見合った象徴を刻んだカード──〈アルカナ〉。百年以上前、一人の魔術師によって確立された魔術だ。その八番に、【正義】という役割がある」
言ったあと、男はひとつため息をついた。




