02
男の背負った大鎌は、生を終えた人間の魂を刈りとり、冥界へと誘う死神の得物をたやすく連想させる。何の変哲もない、くたびれた印象のある黒ローブすら、死神のそれに見えてしまうほどに。昼の陽光に照らされていながら、夜の影よりも黒く見えてくるほどに。
レビの呟きが聞こえたのか、死神のような男はゆるりと振り返った。
男の顔はほとんど隠されていた。長い黒髪が目元を覆い、下半分も黒ローブのえりに埋もれている。前髪の隙間から見える金の瞳は、上がりきらないまぶたに半分隠されていた。
緩慢な動きも、半開きの目も、男の病的な無気力さを現しているようだった。生を疎み、死にとり憑かれている、と言った方が正しいかもしれない。
金の瞳がレビを射止める。悪寒すら感じるほどに冷たい視線に、レビは体を震わせた。底の見えない深い穴を覗いてしまったような、浮遊感を伴う恐怖心が湧きあがる。
「なるほど──お前が正義の娘か」
男の声は平坦だった。
感情の起伏を感じさせない口調は、レビにさらなる恐怖を抱かせる。三人の男を前にしてなお圧倒した身体能力は、現状、発揮することができない。
レビの意志と感情を消し、圧倒的な力を与える魔術は、元々レビの意志に呼応して発動するようにはできていない。
「……なんの、こと?」
かろうじて紡ぎ出すことのできた声は、自分のものとは思えないほどに掠れていた。
昨晩、三人の男を斬殺した場面が脳裏でまたたく。レビの意志には従わず、誰のものとも分からない正義を振りかざしたあの瞬間。何も考えず、何も感じずに剣を振ったあの刹那。
浴びてもいない返り血の生ぬるさを感じて、レビは思わず頬に手を当てた。
「変わった魔術を扱う娘がいると聞いた」
コツリ、と。死神のような男の足音が、狭い路地に響く。




