06
それらが消えることなくレビの中に留まっているのは、感情をなくすように仕向けていたエイドも同様に恐怖しているためだろう。必要以上に増幅された感情にまかせ、レビは鳴りそうになる歯を食いしばって剣を振るう。
本能的な判断だったためか、切っ先は胴体に向けられた。首を狙った連撃の合間に放たれたこともあって、〈十三番〉の回避が間に合わない。体をひねるようにして致命傷は免れたものの、遅れたローブの下、右の肩口に、
「──?」
刺さらなかった。
黒いローブだけを貫いた切っ先に、それ以上の手応えがない。皮膚を裂き、肉を貫き、骨に当たる感触が欠落している。布の生地を斬っただけの、空振りに近い手応え。
「これは俺の話になるが」
唐突に、〈十三番〉は話を切り出した。
留め具付近を裂かれたらしいローブは、〈十三番〉の動きに振り回されて大鎌を背負うベルトにぶら下がって止まる。下に隠されていた体はローブと同様の黒い衣服で覆われていたが、その両肩から先、袖の中にはなにもなかった。余った袖部分は固く結ばれ、両腕が欠落していることを強く意識させる。
「俺が【十三番】の力を得ようとした理由は、浅はかな復讐のためだ。故郷と家族と恋人を失い、敵の前から逃げ出して、それでもどうにかして復讐したいと思った結果がこれだ」
再び、レビの意志とは無関係に、右腕が剣を振るう。
繰り返される攻撃と回避。その間も、〈十三番〉は言葉を揺るがさない。
「得た力で復讐を果たした。代わりに、名と両腕を失った。なくしたものは多いが、これが最善の道だったと今でも思っている」
平坦な口調で語られてはいるが、その裏には深い悲しみが垣間見えた。手を止めたい、という思いがレビの中で芽生えるが、今が好機と感じているらしいエイドは、レビの感情をことごとく抑えこんで消し去ろうとする。