04
それでも、構わなかった。
今なら、抗う気力がある。自分はひとりの人間だと、主張することができる。それだけで十分だった。
「あたしはあんたの正義じゃない!」
エイドの片眉が跳ねあがった。その意志と繋がっている体内の象徴から、どす黒い感情がレビに流れ込む。
象徴として使われてしまえば、たとえ自らの思考や感情を阻害することになったとしても、レビは無自覚にエイドの意志を増幅してしまう。それは、ものが上から下へ落ちることと同じくらいに当たり前のことで、抗えないことだった。
怒り、憎しみ、支配欲、歪んだ正義観。エイドの淀んだ感情は、レビの体内にある象徴によって増幅されて彼女の自我を奪おうとする。
意識は黒く染まりはじめ、何かを考えることすら億劫になる。恐怖心はない。ただ、気休め程度の達成感と、それを支える大きな諦めだけがあった。
自分の父親を殺すよりは、よほどマシな終わり方だと、諦めをつけた。
「……我が正義」
虚ろな目で声のする方を見ると、エイドがレビの右手に剣を握らせるところだった。
「最後の調整だ。白蛇の瓶を持って地下室に──」
行け、まで聞くことはできなかった。
エイドの命令を阻んだのは、二人のすぐ隣で玄関扉がはじけ飛んだ衝撃だった。
扉を破壊した音と、扉が壁に激突した音はほぼ同時。木製とはいえ一戸建て家屋の扉を蹴破った足は、そのまま室内への一歩を踏み出した。
黒いローブ。黒い髪。金の瞳。長い柄と三日月型の刃。
「じゅう、さん、ばん……?」
自らが司るカードと同じ名を持つ男だった。
死神のような、男だった。
「心配するな。勝手に魔術師を殺したりはしない」
坦々と、〈十三番〉は告げる。
その言葉に真っ先に反応したのは、当の魔術師であるエイドだった。
「っ──我が正義! この男を正義に基づき、罰しろ!」