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ブータン日記  作者: チャッピー一族
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 朝食を食べ終え、ボイルとブータンは再び部屋に戻った。向かい合った2人の間には、昨日と同じ本が置かれたブタハナが本の内容を読み取っている所だ。

 本の世界に実際に入る事の出来る夢の様なシステムをブタハナに追加し、ボイルは嫌というほどその世界を堪能した。できたら別の本をチョイスしたいが、ブータンだけワイズの世界に行けなかったという謎を解明するためだから仕方ない。ちなみに本のジャンルは子供なら皆好きであろう剣と魔法のファンタジー物だ。

「今回は確認のために入るだけだからすぐに戻ろう。元の世界に戻るには、戻りたいと念じるんだよ」

 昨日と同じ説明をボイルは念のためもう1度した。昨日、ブータンは本の中の世界に行けなかったにも関わらず、朝まで戻って来なかった。それに、本の世界から元の世界に戻る際、たとえ数年滞在しようが元の世界の時間は数分しか経たないはずなのだ。

 この謎も出来れば解き明かしたい。

 2人は本に手をかざした。一瞬辺りが光で包まれた様な錯覚に陥った。


8月24日


 ブータンはまだ戻ってこない。

 ボイルは、また主人公のワイズに憑依してしまい、化け物に追い回されたり命を掛けた決闘をしたりと大変な目に遭った。しばらくこのシステムは使わまいと誓うのだった。

「おはようボイル君。介夫はまだ起きないの ?」

 朝食をとりにリビングに向かうと、叔母さんが挨拶ついでにブータンの事を聞いてきた。

「ああ、夕べ遅くまでゲームをしてたから、声をかけても全然起きなくて」

 正直に話しても信じろと言うのが無理だ。なのでボイルはとっさに出てきた理由を言った。

「あら、そうなの。もう少しで夏休み終わっちゃうのに宿題は大丈夫なのかしら」

 叔母さんは信じてくれた。ボイルは何食わぬ顔でトーストにジャムを塗って食べた。

 朝食を食べ終わりボイルは部屋に戻った。先程は寝てるで誤魔化せたが、昼時は寝てるはもう使えないだろう。叔母さんに気付かれる前にブータンを連れ戻さねばならない。

 そこで昨日後回しにした謎について考えた。どうしてブータンだけ戻って来るのに時間がかかるのか。豚太郎と武士は本の世界に行って戻って来ても時間は5分程しか経っていなかったのに。ブータンが持ち主だからなのか、他に理由があるのか。手懸かりが無さすぎる為、いくらボイルでも現段階で謎を解くのは不可能だ。とりあえずボイルは黒柳さんの公園に行くことにした。


 公園に行くとレイがブランコに座っていた。ボイルは隣のブランコに座った。

「今日はブータンと一緒じゃないのね」

「昨日の朝から戻って来ないんだ」

「かなりのめり込んでるのね」

 レイは気だるそうに答えた。暑さに堪えている。

 ボイルはブランコから降りて自販機でコーラを2つ買った。1つはレイに渡した。

「気が利く。流石英国紳士」

「英国生まれじゃないけどね」

 ボイルはブランコに座り、謎の事を話した。

「そんな仕組みになってたの ?てっきり嫌になってすぐに帰ってきたのかと思った」

 あれ、そういえばどうして僕は2回ともワイズだったんだろう。同じ人間に取り付く可能性は宝くじで1等を当てるより低い。でも0では無いので、たまたまかもしれない。もう1度確かめてみよう。ボイルはブランコから降りた。

「帰ってもう1度行ってくるよ」

「そう、気を付けて。あとコーラありがとう」

「ねえ、レイも一緒に来ない ?人手は多い方が良いから」

 ボイルはレイを誘った。暇そうだし暑そうだったので、丁度人手が欲しかったからだ。

「ごめん、昼から事務所で打ち合わせがあるの」

 レイは10月にヒーローとしてデビューする為の準備で忙しい様だ。公園に居たのも事務所の迎えの車を待っていたからだそうだ。

「そっか、大変だね。じゃあ、頑張ってね」

 ボイルは公園を後にした。

「お帰りボイル君。どこに行ってたの ?」

 ボイルが家に戻ると叔母がボイルに聞いた。

「ちょっと公園に」

「そう、もう少しでお昼出来るから待っててね」

 ボイルは部屋に上がった。

 部屋の真ん中にはブタハナがポツリとある。ボイルは時計を確認した。

 11時45分

 ボイルは本に手をかざした。


 ボイルは魔法使いワイズの世界に着くや否や、鏡越しに自分の顔を確認した。鏡に写ったのは自分の顔ではなくこの本の主人公ワイズの顔。この顔にも慣れてきた。

ボイルがワイズになるのは偶然では無いらしい。主人公は行動が制限されるので色々不都合なのだが。

 現在居るのは寮の寝室。皆寝静まっている。

 ボイルは寝室を出た。今ならストーリー上出番は無いので行動するなら今しかない。

 ボイルは薬品保管庫を目指した。ボイルはブータンが何処に居るか予測していた。普通に考えると有り得ないが、ボイルはそれに賭けてみようと思った。もし外れたら、そのままこの世界から出てしまえば良い。

 見回りに見つからない様慎重に歩いた。幸い薬品保管庫までの道のりで見回りに遭遇することは無かった。

 鍵開けの呪文を唱え保管庫に入ると、必要な物を取った。

 瞬間移動薬だ。

 作り方や原理はよく分からないが、自分が行きたい場所をイメージするとそこへ行けるという便利な薬だ。ただし、明確にイメージしないと違う場所へ飛ばされてしまう。

 ボイルは瓶から薬を手に取り、行きたい場所をイメージした。そして薬を足下に投げた。

 もくもくと出る煙に包まれ、ボイルは消えた。


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