シティ・コロシアム
トン王国に来てもう20日以上経った。長い休暇も残すところあとわずかだ。
食べ物は美味でボリュームがあり、施設も充実していて、何より居心地が良い。ここが故郷だというのも理由の1つだろうが、いっそのこと、ここに引っ越しても良いかなと少し考える時もある。妻もここでの生活を満喫している様だし、ボイルは介夫君と仲良くやっている。
ボイルと介夫君は近くの公園でお泊まり会をしているため家には居ない。仁野介さんは仕事に出ている。ちなみに仁野介さんは秋葉の電気屋で家電の修理をする仕事をしているそうだ。
現在リビングで妹とトーストをかじりながらテレビを観ている。
今日は1日晴れ
特に理由は無いが、晴れた日は爽やかな気分になる。
「お兄ちゃんパンに何も付けないの ?ジャムなら沢山あるから遠慮しなくて良いよ」
「僕は素材の味を楽しみたいのさ。子供の頃からそうだったろ」
「そうだったね」
妹が微笑みながら言った。
「どうした ?」
「いや、家を出て行って20年以上経つけど変わらないなと思って」
そうか、もうそんなに経っていたか。時が経つのは早い。
と感じながらコーヒーを口に含んだ。
『午前8時となりました。今日は秋葉町にてマスクドライバー対足高の試合が行われます。今シーズンまだ1度もマスクドライバーに勝てていない足高。今回は勝利を掴む事が出来るのでしょうか』
「シティ・コロシアム、ここでもやっていたのか」
シティ・コロシアムとは、アメリカ発祥の怪人や超能力者が、1つの街をステージとして戦う競技である。強すぎる故に就職が困難な者、能力を持て余している者がほとんどだが、中には怪人や能力者では無いが、一般の競技では物足りず、更なる強者との闘いを求めて参戦する者も居る。
「トン王国の選手はどんな戦いをするのか見物だな」
中継ではいかにも怪人という姿をした男が立っている。蜘蛛をモチーフとしている様だ。
「また遅れてる。ヒーローのそういう所気に入らない。あいつら自分達は遅れても許されると思ってるんだから」
「演出じゃないのか ?」
「そんな迷惑な演出いらないわよ」
『マスクドライバー、遅れて登場だあー !見事なドライブテクニックでアピール !』
派手な車が狭い道路を速度を落とさず通ったり、ドリフトをしながら足高の居る広場に近づいて来る。
車から出てきたのは革ジャンにジーパン姿のサングラスを掛けた青年だった。バックルの大きなベルトをしていて、あれのせいで妙にダサく見える。
「今日こそお前を倒して見せる」
「この台詞、何度目かな」
そう言いながら青年は懐から何かを取り出した。
「変身」
それをベルトのバックルに装着すると、みるみる身体中に装甲がまとわり付く。
変身が完了したかと思ったら、バックルにカバーの様な物を取り付けた。すると新たな装甲が彼の身を覆う。
「今だ、かかれ」
足高が後ろに向かって合図をした。同時にビルの陰や建物の中から黒いスーツを着た集団が現れた。
彼等はマスクドライバーへかかって行く。
「1人相手にあんな大勢、卑怯じゃないか」
「そんな事無いわ。向こうはあの集団を凌駕出来る装備を身に付けているんですもの。ほら、何も効いて無い」
妹の言った通り、マスクドライバーはびくともせず、次々とスーツを着た集団を薙ぎ倒している。何度か攻撃を受けているが、殴った方が痛がっているし、武器で頭部をクリーンヒットされてもびくともしていない。
やがてスーツ集団は全滅し、足高だけになった。
『マスクドライバー、あっという間にブラックゼイを倒したーっ !』
blackthey。彼等は黒い。もう少しまともな名前は無かったのだろうか。
『1対1となりました。互いに睨み合っています』
足高が人間離れした速さでマスクドライバー目掛けて突っ込んだ。顔面に拳を突き出す。
ドゴッ
凄い音がした。しかしマスクドライバーはびくともしない。
マスクドライバーは足高の腹へ膝蹴りをした。足高はそれをかわすと顔面にさらにパンチを打った。
しばしの間足高が殴る、マスクドライバーが反撃、足高がかわす。のローテーションが続いた。足高は消耗してきているが、一方的に攻撃を受けているマスクドライバーは息も乱れていない。まるで何も効いていないかの様だ。
マスクドライバーが足高に横蹴りをした。足高は疲労で動きが鈍くなっていて、腹部に蹴りをもろに受けた。
蹴り飛ばされた足高はビル1階のコンビニに激突した。窓ガラスを破り店内の陳列棚に突っ込んだ。
「あーあ、派手にやったなあ。足高大丈夫か ?」
いくら怪人でも大怪我をしているのではないか。
「大丈夫。怪人ってかなりタフだから」
しかし足高は店から出て来なかった。あれだけ強力な蹴りをまともにくらえば無理も無いか。
足高が店から出て来た。怪我は無い様だが様子が違う。後ろに数人の子供を連れている。その子供のうち2人は知っている。
「ボイル、助夫君」
レッドは立ち上がり、家から出た。