第一篇「秘密」 8
朝起きると、すでにゆかりと蒼が朝食を食べていた。
「おはよう。早いな」
「私、今日は仕事行くから」
「そうか。」
「俺は今日から本格的に店出る」
「・・・ああ、頼んだぞ。じゃあ俺行ってくるわ」
「もう? 朝ご飯は?」
「いや、いらない。今日は朝から予約が入ってるんだ。」
「そう。いってらっしゃい。」
慧が玄関を出た後、蒼はおもむろに話し始めた。
「兄さん。研修医のときから変わってないね。いつでも忙しい」
「医者だもの、仕方ないわ。」
「姉さんはずっと甘味処なの?」
「そうよ。もう他で働くような元気ないわよ。」
「そんな・・・。姉さん、まだ若いじゃない」
「何言ってるの。あんたが知らない間に二十四歳になってたのと同じで、私だって年とってるのよ」
「・・・・・結婚とかは・・・?」
「・・・・なあに?突然。」
「あ・・いや・・・この家、どうなっていくのかなって考えてたから、ちょっと気になっただけ」
「――――――――――どうなるって。」
「あ、いや、いいんだ。ごめん。」
「・・・・・・変わらないわ。・・・・・変わらないわよ、きっと。・・・・・・みんな、それぞれ生きていくのよ。」
「――――――― うん、そうだね・・・・・。」
それからしばらく二人は無言で食べていたが。
「・・・・心配しないで、ちゃんといるのよ、私にだって」
「えっ?」
「付き合っている人、ちゃんといるの。」
「―――――――― そっか。そうなんだ。」
「うん。」
ゆかりはそれからまた黙った。蒼もそれに追ずるようにまた黙った。
付き合っている人がいる・・・
そういったゆかりの目は、静かでありながらも、女だった。