表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/31

第一篇「秘密」 7

父からの真実の告白を受けた俺は、その足で白川南通りの方まで来ていた。そこには一応行きつけと言える店があり。


「あら、いらっしゃい」


「なんだよ、相変わらずガラガラだな」


「何言ってんのよ。もう閉める時間なのよ」


「まあそう言わず付き合えよ」


この店を切り盛りするこの女性は、俺の昔からの幼馴染だ。中学までは同級生でもあったが卒業後、彼女は舞妓としてお座敷に上がった。その後は芸妓としても活躍したが五年前に引退しこの店を開いた。名前は九条一珠。本名だ。『いちたま』と書いて『ひとみ』と読む。


「・・・・・何かあったの?」



「・・・・母さんがさ・・・」


「――――――――」


「・・・そろそろな」


「――――― 絢子お母さん、今は?」


「・・・今はまだ普通に過ごしてる。でもな・・・」


カウンターに腰かけた俺の前にそっとお茶が差し出された。


「・・・・酒くれ」


「・・・・・いやよ。」


「店が断っていいのかよ。」


「・・・・・もうお店閉めてるから」


「――――――」


「絢子さん、ずっと病院?」


「ああ。とりあえず昨日今日はゆかりがついてた」


「ゆかりちゃん大変ね。」


「明日からは蒼にも交代で行ってもらうから」


「そう。」


「・・・・人間、いつどうなるかなんて、本当に分からないものだな」


つい、本音を漏らしてしまった。


「・・・・・それ、医者のあなたが言うセリフなの?」


一珠は少し笑いながら言った。


「・・・ほんとそうだな・・・」


俺も笑った。笑える気分なんかじゃないのに、笑えた。

花街の女には、そういう力が、あると思う。

そして、花街の女は、鋭い。


「でも・・・それだけじゃないんじゃないの?」


「え?」


「――――――――」


「・・・・まあな、いろいろあるんだよ、俺にも」


「・・・・らしくないわね」


「――――― なあ。」


「ん?」


「女ってさあ、人生の最期に、何望む?」


「――――さあ。そんなの、女も男もないんじゃないの」


「――――――――」


「―――――大事なものは、同じよ、きっと」


大事なものは同じ・・・か。


俺はお茶を飲みほして店を出た。


冷たい夜風が、京都に秋を告げていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ