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第一篇「秘密」 5

次の日も、ゆかりは職場である甘味処の店長から許可を貰って朝から母の病室にいた。ゆかりはとにかく口は割らずに母の看護を粛々と務める気のようだ。


「ゆかり。もう毎日こんな早くから来なくていいから」

「何言ってるのよ。母さん遠慮しいだから、何かしてほしいことあっても看護師さんに言えないでしょ。まあでも、明日は仕事に出るつもりだし。朝から来るのは当分ないかな・・」

「そう。そういえばどうなの、仕事の方は。」

「どうって。ただのパートだし。そんなに何もないわよ」

「それならいいんだけれど・・・・・」

「人の心配してないで、自分のことだけ、今は考えて」

母さんは本当にこういう人だ。だから俺たちはまだあのことについて半信半疑だ。あれだけの証拠が出ているのに、半信半疑なんだ。


「・・・・・そうは言ってもね・・・。自分のことだけって、こんなに難しいことないわよ」

今までの人生の大半を人のために生きてきたであろう母。それを突然辞めるというのはとても難しいことなのだろう。

「・・・・母さん。やりたいこととかないの?」

「・・・今更ねぇ。全然思いつかないのよ」

「じゃあたとえば、会いたい人とか・・・・」

ゆかりは自分で言って、自分で動揺してしまった。母の会いたい人・・・もしあれが事実なら・・・・・。


「それも特にないわ。・・・・なんだか、とっても寂しい人間みたいね、私。」


そんなことないよ、家族がいるじゃない。そう言うべきなのだろう。だって実際そうなのだから。母さんは寂しい人間なんかじゃない。優しく誰にも好かれる太陽のような人だ。ただ、今となりにいるゆかりは、その言葉を口に出来なかった。知ってしまったことは隠し通す、そう決めた。でも心は正直で、疑惑の気持ちを自分の中で砕くことはまだ出来ていなかった。







ゆかりは昨日病院を後にして家に帰ったあと、一人でもう一度手紙と写真を眺めた。兄には強気に分かり切ったように言い捨てたが、本当は自分でも信じられていなかった。

あの母が不倫・・・。人のために生きている人そのものだった母が。父は知っていたのだろうか。というよりも知っているのだろうか、この事実を。ゆかりは一人思い詰めていた。しかし同時に思う。この事実は自分と父にしか関係のないこと。自分がもう忘れたら、外で口にしなければ、なんの問題もないのではないか。もう三十年も前の話である。時効なのではないか。


ゆかりは隠し通すことを決意した。今この状況で、母から家族が離れていく。そんなことにはしたくなかった。


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