第二篇「告白」 29
結婚して三年後、事件は起こった。
博と絢子が結婚したこともむなしく、絢子の実家は倒産してしまったのである。
絢子は正気を失っていた。
実家が倒産したことだけに対してではない。自分の犠牲が実を結ばなかったことに対する悲しみが押し寄せてきていた。
博は伝手を頼りに、祇園で独立することに決め、絢子もそこで再スタートすることになった。
粛々と少ない荷物の片づけを終え、絢子は書店に向かい、一冊の雑誌を購入した。毎月、松宮が執筆した文章が掲載されている雑誌だ。
一人、空っぽになった部屋の中で彼のページを開いた。すると・・・・。
『・・・・これは、何・・・?』
絢子は、もう一度その短い文章を読み返した。
青い光は、途切れることなく照らし続ける
それはそれは、眩くて
決して消えない希望の道筋
その光に照らされたものは応えるように反射する
あなたこそ、青い光
今度は反射で照らすから
今、あなたに幸あれ
―――― 一九八四 愛
何のつもりか。罪滅ぼしか。自己満足か。
絢子は無性に腹が立った。これは、意図的に私に向けて書いている。どういう心境で書いたのだろうか。こんな・・・。詩とも言えないような付け焼刃のへたくそな文章。
同時に、抑えられない涙が次から次へと流れ出た。なぜ泣いていると自分に問うても答えは無かった。
『本当に、いっつも、タイミング悪い』
絢子は一人そう呟いた。もう感情をコントロールできなくなっていた。
次の瞬間には、絢子は家を飛び出し、あの古本屋へと走っていた。