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第二篇「告白」 28
松宮は絢子への思いを懸命に振り切り、小説執筆に没頭していた。連載も人気を博し、遅咲きの小説家として順風満帆な日々を過ごしていた。それから三年ほどが過ぎたある日、担当者からとある話を持ち掛けられる。
『次の作品、国際色をぜひ持たせていただきたいんですよ』
『えー、俺、そんな海外に対する知識無いですよ』
『ですよね。だからね、半年か一年くらい海外で執筆してみたらいかがかなと思うんですよ』
なんとも突拍子もない提案だと感じた。しかし、今の松宮に断る理由も無かった。
『・・・じゃあ、やってみますか』
『本当ですか!じゃあ、よろしくお願いします!』
自宅に戻り冷静になっていろいろと考えた松宮は、ふと絢子のことが頭に浮かぶ。
彼女に、何も知らせずに行ってしまっていいのだろうか。少なくとも、俺を作家にしてくれたのはあの人であり・・・・。今でも、こうして思っているわけであり・・・・。
松宮はあることを思いついた。これは、作家になった松宮だから出来ることであり。彼女に対する最大限の表現だった。