第二篇「告白」 27
ゆかりの目の前には、もう完全に二十七歳の絢子が見えていた。当時の心境が戻ってきているのだろうか、最初よりも険しい表情をしながらも話を続けている。
「彼は宣言通り賞を獲って作家になったわ。でもね私、素直に親の言うことを聞いたわ」
「・・・・・・・・・」
「受賞後に少し話しただけで彼との連絡は絶ったわ。でもね、人生ってそう簡単にはいかないものなのよね」
絢子は松宮と別れたすぐあとに結婚した。この相手が現在の夫である博である。
「・・・・あなたも、分かっているだろうけど、私、博さんとは気が合ったわ。政略結婚だったけれど、それでも、とても素敵な人と巡り合えたと思っていたわ。」
「・・・・・・」
絢子は博と順調に愛を育んだ。そして、一人目の子ども、慧を妊娠し、出産した。
博は穏やかな人だった。そして絢子も徐々に若さを失い、落ち着いてきていた。実家の近くに住み、博は板前として実家で働いていた。
それでも、松宮のことを完全に忘れた日は一日も無かった。それは、罪悪感のせいか、それとも・・・・。
絢子は松宮関連の雑誌などはすべてチェックしていた。これは博にも悟られないように。たった一つの秘密だった。