第二篇「告白」 23
慧は店主に続きを話すように促した。店主は諦めたようにそれを受け入れ話し始めた。
「そのあと二人はな、付き合っているけど付き合っていない、というような生活を六年も続けていたんだ。」
慧はすぐには理解が出来なかった。
「・・・・・・・どういうことですか?」
「松宮という男は意外にも頑固でな、自分が作家として一人前になるまでは絢子さんと関係は持たないと決めていたんだ。そして絢子さんもそれに同意していた。だから、高校生のような純情な恋愛を六年も続けていたんだよ」
「・・・・・・・つまり、松宮さんは六年も芽が出なかったわけですね」
「そういうことだ」
松宮は絢子と出会った後の六年、アルバイトをしながら小説を書き続けていたが、一向に芽が出る気配がなかった。絢子を不安な気持ちのまま待たせているという自覚はあったが、自分の信念を曲げることは出来なかった。
しかし、もう限界が来ていた。二十七歳、人生をやり直すには今の年齢がぎりぎりだろう。だから松宮は、次の投稿で駄目ならば、小説家を諦めようと決めた。それと同時に絢子のことも諦めようと決めた。散々待たせていながらつくづく最低だとは思うが、人生をやり直した時に絢子を幸せにする自信は松宮には無かった。
その話を聞いた店主は、何も言えなかったという。呆れたのは言うまでもないが、松宮を引き留めることは出来なかった。店主も責任を持てなかったからだ。
その日、松宮は絢子を河川敷に呼び出した。
『なに?話って』
『うん・・・。あのな、俺、今度の投稿を最後にしようと思うんだ』
『・・・・そんなに自信があるんだ』
『・・・・だといいんだけどね。そうじゃない。これからのことを考えてだよ。』
『・・・・次駄目だったら諦めるってこと・・・?』
『うん・・・・。君のことも、そうなんだ』
絢子は一瞬不審な顔をしたがすぐに理解したようだった。
『本当に勝手ね。本当に・・・・・・』
『分かってる、最低なのは分かってる。でも、次の人生で君を幸せにする自信は僕には無い』
絢子は涙を見せた。松宮も涙が込み上げてきたが必死にこらえた。
まだ、終わってはいない。次の小説に命を懸ける。
夢も、彼女も、必ず、全てを手に入れてみせる、と心に誓った。