第二篇「告白」 22
ゆかりは母の話を、自分のことにも照らし合わせながら聞いていた。
絢子は松宮の部屋に上がったというところで一旦話を切り、自分の生い立ちについて話し始めた。
絢子は京都の老舗料亭の長女として生まれた。老舗の料亭だけあって女性としての教育が徹底して行われ、絢子は窮屈に感じていた。
唯一の救いは、兄がいたため家を継ぐ必要がなかったことくらいだった。
絢子は反抗期を迎えて以降、母親と面と向かって話したことは無い。それほど、とにかく家が嫌いで嫌いで仕方なかった。そして、女の幸せは良い男性と巡り合い結婚して子どもを持つことだと嫌というほど吹き込まれてきたためか、むしろ逆の人生を望むようになっていた。だから絢子は高校卒業と同時に出版社に就職した。
そして、自らの父のような厳格で自由の無い男は嫌いだった。
だから、松宮のような、将来は見えないけれど、自由で夢があり己の道だけを歩んでいる男に惹かれたのである。
このころにはもう実家の料亭は兄夫婦が継いでいて、絢子はもう実家のことなど脳裏の片隅に追いやり、ほとんど気にしない生活になっていた。
そして再び絢子は、松宮とのことに話を戻した。
絢子と松宮は、編集者と作家の卵という関係性である。だから絢子としてはあまりおおっぴらには会えなかった。だから二人のデートは専ら河川敷、そしてあの店主がいる古本屋だった。河川敷ではいつも松宮は石飛ばしをやって見せた。子どものころに父親に教わったそうだ。とにかく絢子は、自分とは全く違う環境で育ち、全く違う生活をする松宮に強く惹かれていった。
古本屋では二人ともそれぞれに本を読んだ。絢子は、松宮がたまに店主と目を合わせたりしていることが気になってはいたが、特に問いただそうとも思わなかった。とにかく、二人でいる時間が幸せで仕方が無かった。青春とはこういうことなのだと、この年になって実感していた。