第二篇「告白」 21
店主は相変わらず川を眺めながら、続きを話し始めた。
店主の作戦を実行した松宮は数日後、再び手ぶらで古本屋を訪れたという。
『で、どうなったんだよ』
『・・・・・・』
松宮は表情を変えずに答えなかった。
『なんだ、失敗したのか』
そう言うと松宮は店主に背を向けてぽつりとつぶやいた。
『まさか、上手くいくなんて思いませんでした』
『・・・・捕まえたのか!』
店主が驚き声をあげると松宮は店主のほうを振り返り満面の笑みで答えた。
『はい!今度、デートの約束を取り付けました!』
『・・やったな。じゃ、小説の方も少しはましになるんじゃないか?』
『・・・え、どういうことですか?』
『・・・人間、経験がものを言うってことだよ』
『・・・よくわかりませんけど、とりあえずがんばりますよ。じゃあ』
そう言って松宮は足早に店を後にしたという。
「まさか母がそんな単純なことに引っ掛かるなんて」
慧は思ったことをそのまま口に出してしまっていた。
「引っ掛かったわけじゃないだろう。わざわざ引っ掛かりにいっているんだよ、絢子さんは」
「あ、そうか・・・。まだ、父とは出会っていないわけですもんね」
「・・・まだ話は始まったばかりだぞ。聞くのをやめるなら今のうちだが、本当に全部聞くのか?」
店主は慧に気を遣うようにそう聞いてきた。おそらくこんな序盤で少し動揺を見せた慧が、全て聞いたときにどうなるのか、容易に想像が出来たからだろう。聞かない方が幸せだと言っているのだと慧は分かった。でも。
「・・・・はい、お願いします。今はとにかく知りたいんです。母のことを」
知らなくてはいけない、その思いは、慧の確固たる意志だから、曲げることは出来なかった。