第二篇「告白」 20
母は隣に座るゆかりの顔は見ず、窓の外を眺めながら淡々と話し続けている。
ある日、いつものように松宮が原稿を見せに来たがまたしても採用とはならず、上司はいらだった様子でその場を離れた。すると松宮はまたいつものようにこっそりと絢子に原稿を渡し、そそくさと逃げるように帰って行った。座っていた椅子に万年筆の忘れ物を絢子が見つけた時にはすでに松宮はいなかった。その忘れ物は、松宮の様子から考えられる生活レベルでは到底買えないような高価なものだった。絢子はその万年筆を大事にハンカチに包み鞄へ入れた。
その夜、絢子が松宮の原稿を読んでいると紙切れが一枚挟まっていた。そこには、住所らしきものが書かれていた。絢子はハッとした。
これは・・・・どういうことなのだろうか。そういうことだろうか。
次の日、絢子はその紙に書かれていた住所の家の前に立ち、ドアをたたいていた。するとドアが開き、非常に申し訳なさそうな顔の松宮が出てきた。
『・・・・本当にすみません。』
『・・・いや、私はこれを届けに来ただけですから・・。謝られても困ります。』
そういって絢子はやや強引に万年筆を松宮に渡し、足早にその場を去ろうとした。
『・・ま、待って!』
松宮は思い切って声をかけた。すると絢子は立ち止まり、恐る恐る振り向いた。
『・・・なんですか?』
『・・・あの、お茶でもいかがですか・・? あ・・・、俺金無くて、何ももてなせるものなんてないんですけども・・・えっと・・・』
松宮はしどろもどろになりながらも一生懸命に絢子を引き留めようとした。その滑稽だけど純粋な姿に、絢子は揺らぎ、そして引き返した。
始まりの扉を開けた瞬間だった。