表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/31

第二篇「告白」 17

店主は父親の後を継いで一九七〇年に古本屋の責任者になった。その当時から現在と変わらず繁昌はしていなかったが、常連客は何人かいた。松宮はその中の一人だった。


松宮は当時、大学一回生。奇しくも学生運動真っ只中で、若者が熱い時代だった。そんな中で彼が情熱を燃やしたのは執筆活動だった。当時、彼の周りにわんさかといた情熱的な若者を主人公にした物語を多く書いていた。


彼は多くの出版社に作品を持ち込んでいたが、いずれも出版のチャンスには恵まれなかった。それは、彼の作風に問題があったからかもしれない。


古本屋へやってきては文学作品を読み漁り、時々大事そうに買っていく。そんな松宮を店主は印象的に見ていた。そんなことが半年ほど続いた頃、彼は不意に話しかけてきた。


  『これ、読んでくれませんか』


松宮は原稿用紙の入った封筒を差し出してきた。少し頬が高揚し、イラついている様子だった。どうやら、編集者に横柄な態度で原稿を突き返されたらしい。


  『俺なんかに読ませて、どうするつもり?』

  『・・・とにかく、読んでほしいんです』


そういうと松宮は、ほとんど押し付けるように店主に原稿を渡し、そのまま店を去った。

松宮の書く世界は、苦しかった。熱く苦しい物語が続いていた。


それからも何度かそのようなことがあり、気が付けば一年半が過ぎ、松宮は三回生になっていた。


ある日、いつものようにやってきた松宮の雰囲気が違っていることに気が付いた。


  『どうした。何かいいことでもあったのか』

  『え。なんでですが?今日もいつも通り、惨敗です。』

  『・・・そうなのか。じゃあ今日の原稿は?』

  『あ・・、今日は原稿はないんだよねー・・・・』

  『・・・ははーん、女だな』


女っ気などまるで無かった松宮に、どうやら春が訪れたらしかった。


  『・・・いや・・・じつはさ・・・。担当編集者には惨敗だったんだけど、アシスタントについていた女性が原稿、受け取ってくれたんですよ。』


その話を聞いて、その女はものすごい度胸のある人だと思った。上司が蹴った原稿を受け取るということは、これから編集者を目指すアシスタントにとってはかなりリスキーなことだろう。


  『・・・そうか。それは、大きな一歩かもしれんぞ』

  『・・・・やっぱり、そう考えていいのかな・・・』


松宮は、嬉しそうに微笑んだ。この時はまだ誰も、こんな未来が待っているなんて思ってもいなかった。一九七二年、松宮二一歳の春だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ