第二篇「告白」 16
翌日、勤務を終えた後、慧はあの古本屋へ向かっていた。時間も時間で、店に人影は無く、閉店が迫っていた。店の奥で、その店主は座っていた。慧に気づいた店主は立ち上がりあごをしゃくった。どうやら、店の中で話をするつもりはないようだ。
「・・・・ついて来な」
店主はそういって慧の前を歩いた。無言で歩き続け、気が付けば駅付近の鴨川まで戻ってきていた。
「いつかこんな日が来るとは思っていたんだ」
「・・・・えっ」
振り返った店主は、いつもの不愛想な表情ではなかった。なぜか、とても懐かしそうな顔をしていた。
「・・・松宮なんて名前・・・三十年ぶりに聞いたよ。」
店主はため息をつき、黙ってしまった。
「・・・・あの」
店主は、慧をなめるようにじろりと振り返った。
「・・・その人って・・」
「・・・・あんた、いくつ」
店主は慧の話を遮り、いきなり聞いてきた。
「・・・三十二です」
「・・・・じゃあ、あんたじゃないのか」
「――――――」
「・・・あの男の子どもはあんたじゃないんだな」
「・・・・・それはおそらく、俺の2つ下の妹です。」
店主は川を眺めていた。
「・・・・・俺は松宮の一方的な話しか知らんぞ。」
店主はそう言うと、石を手に取って川に跳ねさせた。