第二篇「告白」 14
そのころ慧は例の古本屋にいた。店主は相変わらず偏屈そうで、話しかけるのに躊躇したが、意を決して尋ねてみた。
「・・・あの」
「・・・いらっしゃい」
「・・ちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・いいですか?」
「・・・・なに?」
「あ、えっと・・・。松宮っていう男、知りませんか?あと、群青っていう本も・・・」
「・・・・・・」
店主は答えなかった。いつもよりますます影がかった男に見えた。
「あ・・・えっと・・・すみません、変なこと聞いて。また出直し」
「・・・あんた、誰」
「・・・あ、すみません。岡部クリニックで医師をしています、池垣といいま
す。・・・」
「・・・・・」
気のせいかもしれないが、俺の名前を聞いて一瞬店主の目が見開かれたような気がした。
「・・・・・すまないが、明日もう一度出直してもらえるか。今日はこの通り、アルバイトが休みで、店番がわしだけだ。」
「―――――― あ、はい。すみませんでした」
驚いた。店主は何か知っていて、しかもそれを話してくれる気があるようだった。
俺は明日もう一度必ず来ると約束し、店を後にした。
家に帰ると、ゆかりが病院から帰ってきていた。
「ただいま。どうした、母さんの所にいたんじゃないのか」
「・・・・・・」
ゆかりは俺と顔を合わせようともせず、黙っていた。
「おい、どうしたんだよ。黙り込んで。」
そういうと、ゆかりはおもむろに口を開いた。
「・・・・話したの?」
「・・・何が」
「・・・お母さんに・・・私たちが写真を見つけたこと、話したのね」
「・・・・・俺は・・・」
「どうしてよ! 黙っておくって約束したじゃない!なんで勝手に・・・」
俺が話したのは母さんではなく父さんだ、なんていう事実は、この際どうでもよかった。
「・・・・・・勝手に話したことは謝る。でもな・・・俺、考えたんだよ。」
「――――――――」
明らかに軽蔑した目でゆかりは俺を見ていた。
「・・・・俺たちの中でこの問題を解決させないまま、幸せに母さんを見送れるのかって。」
「・・・・・・」
「・・・・そうは思わないか」
「・・・・思わない・・ことはない・・・けど。・・・・事実なんて・・知りたくなかった!」
「・・・母さんが、お前に何か話したのか・・・」
「・・・はっきりと言われたし・・・泣かれた・・・・。」
「――――――― それで・・・飛び出してきたのか・・・」
ゆかりは、ゆっくりとうなずいた。
「・・・・・・・お前は確かに娘だけれど・・・同じ女として、その告白は受け止めるべきじゃないかな・・・・・。」
「―――――」
ゆかりはまるで、お前に何がわかる、と言いたげな目をしていた。
「・・・・きっと・・・大丈夫だ。俺たちは・・・家族だぜ・・・?」
そういうと、ゆかりは、涙を目に少し浮かべていた。そして、ゆっくりと立ち上がり、家を出た。