第二篇「告白」 13
あれから、心に引っ掛かるものを感じながら過ごしていたゆかりは、今日も普段通り病室へやってきた。
「お母さん」
母は眠っていた。最近は体の痛みが強いらしく、痛みが引いた後はこのように疲れて眠ってしまうことも多い。
ゆかりは母を起こさないように持ってきた着替えなどを片付けようと引き出しを開けた。すると一枚の便箋と鉛筆がその中にまるで隠しているように入っていた。
ゆかりへ
あなたに謝らなければならないことがあります。あなたと慧が見つけたと聞きま
した。驚かせてしまって、本当にごめんなさい。昔、私は罪を犯しました。感づ いている通り、あなたはお父さんの子ではありません。
一九八三年、
ここで文章が途切れていた。おそらく書いている途中に痛み始めたのだろう。
衝撃を受けていた。
母は自分が知っているということを知っていたのだ。
そして、この手紙で全てを告白しようとしている。
ゆかりは静かな怒りを覚えていた。手紙で告白するとはどういうことか。
それは、自分が生きている間に伝える気は無いということだ。
そんなことが許されるだろうか。お母さんは、卑怯だ。
手紙で告白できるくらい正当な理由があるのなら、直接伝えるのが・・・。
「・・・ゆかり」
ゆかりはハッとして後ろを振り返った。すると、母が呆然とした表情でこちらを見ていた。
慌てて引き出しを閉め、母に笑いかける。
「・・・起きたの? 痛み、大丈夫なの?」
母は、ゆかりの質問には答えず、呆然とした表情のままで口を開いた。
「・・・・・見たのね」
「―――――――――――――」
ゆかりは無言の肯定をせざる負えなかった。その後、永遠かと思えるほどの沈黙が続いた。その沈黙を破ったのはゆかりだった。
「見たわよ。」
「・・・・・本当にごめんなさ・・」
「卑怯ね」
ゆかりは、謝る母の言葉を遮り、辛辣な単語を淡々と浴びせた。
「お母さんは卑怯よ。罪だと認めておきながらなんで直接言わないのよ。自分が死ぬまで、今の現状を変えるのが怖かったんでしょう。言わなければ穏やかに過ごすことが出来る、そう思ったんでしょう。その通りよ。私は自分の心の中だけで処理しようとしてるわ。」
「―――――――――」
「お母さんは自分だけ楽になろうとしてる。直接は言えないけれど、謝らなければ辛い。だから、手紙に懺悔して、死んでから読ませようとしたのよね。・・・・そんなの、ずるすぎるわ。」
ゆかりの目から、涙がこぼれた。母から家族が離れていくことを避けたいなどという気遣いをする余裕など、もうゆかりには無かった。そして、病室から飛び出していった。
「――――――――」
絢子はただ、開かれっぱなしになったドアを見つめることしかできなかった。