第一篇「秘密」 11
絢子は病室でぼんやりと外を見ていた。
入院してから、ゆかりと蒼が交代でほぼ毎日来てくれる。ありがたいけれど、とても申し訳ない。
余命を改めて告げられた時、自分でも驚くほど冷静だった。
もう・・・・いいと思っていた。
今までの人生を振り返ると、人の優しさのおかげで自分は幸せに過ごしてきたのだと改めて思った。
自分は、子どもたちの思っているような人間ではない。その罪悪感は、ずっとずっと心に引っ掛かり続けた。
だから・・・・これは、当然の結果なのだ。
「絢子」
「・・・あなた・・」
病室の入り口に博が立っていた。
何かを決心したような力強い目で、絢子を見つめていた。
「遅くなってすまない・・・」
「・・・・・・・・お店、大丈夫?」
「・・ああ、蒼が良くやってくれてるよ。あいつはいい男になって帰ってきた。」
「―――――――― そう・・・。」
しばらく無言の時間が続いた。博はベッド横の椅子に座り外を見つめている。
「なあ」
「ねえ」
二人の声が重なった。思わず二人は笑いあった。
まるで・・・あのころのように。
絢子は思う。自分はこの人の笑顔が好きだった。さりげない優しさが好きだった。
今もずっと好きだ。
なのに・・・・・。本当になぜだろう。なぜだったのだろう。
「いいぞ。先に言え」
「・・・・・ううん。何もないの・・・・・」
「―――――――――――― じゃあ、いいか、話しても」
「―――――――――」
博はまた、強い目で絢子を見つめた。
「二人・・・慧と・・・ゆかりが、これを見つけたよ」
博は絢子に、例の写真と手紙を見せる。
「―――――――――」
「・・・・ずっと大切に持っ・・」
「ごめんなさいっ・・・」
「―――――――――――――」
「・・・本当に、ごめんなさい。」
「・・・・謝る必要なんて無いんだよ。」
「―――――――――」
「・・・・いいんだ。持っていたことを責めるつもりはない」
「・・・・あの子たち、これをいつ?」
「・・・君の入院の準備をしていた時だ。タンスを開けたらしい。」
「・・・・・・ゆかりはずっと世話をしてくれているわ・・。慧は、家に帰らないかって言ってくれたわ・・・。二人とも、このことを知っていたのに・・・。」
「―――― そりゃあそうだろう。お前の子だぞ・・」
「・・・・・・罰が当たったのね。隠し通そうなんて、神様が許してくれなかっ
た。」
絢子は静かに涙を流していた。子どもたちの気遣いと優しさに、罪悪感が増しているのだろう。
「・・・・ゆかりからは何も言ってきていない。俺とはまだ何も話してない。だから、あいつがどう思っているのかは正直・・・わからない・・。」
「―――――――」
「・・・・・・・・これ、持って帰っていいか。君に伝えたことは二人には話していない。できれば、元の位置に戻しておきたい。」
絢子は無言の肯定をした。
博は写真を手紙を持ち病室を出た。
絢子の声が聞こえてきた。抑え切れない感情が、嗚咽となって、溢れ出していた。