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第一篇「秘密」 1
あなたと交わした、世界の約束
一
京都祇園、花見小路。今日も、観光客でにぎわっている。
その人波を抜けて、一件の古い京町家の戸を開ける。
「どうだ、準備出来たか」
「うん・・・。」
「どうした?」
「――――――」
差し出されたのは、短い文章で綴られた手紙だった。
絢子へ
責任を取れないことを、本当に申し訳なく思っている。
私は明日、この国を出ることになった。
本当にすまない。生まれた子を頼む。
松宮
「・・・・なんだよこれ」
「・・・・・母さんのタンスにあったの」
ゆかりはこういった後、俺に一枚の写真を手渡してきた。
そこに写っていたのは、お腹を大きくして、微笑んだ若き日の母だった。その裏には、一九八四年四月という表記があった。
「――――――――」
「わかるでしょ。お腹にいるのはきっと私。」
「――――――」
「不倫の証拠よ! 間違いないわ」