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7.アブナイ幼馴染

 

「こんにちは」


 顔を出したのはビートだった。季節柄流石にもう暑いのか、以前着ていた鋼の鎧から皮鎧をつけた軽装になっている。彼を見て真っ先に頭に浮かぶのは幼馴染の事。今日も前回からきっちり五日後に来店したから、恐らく彼女もどこかに隠れて様子を見ている筈だ。


「どーも」

「この間はお茶ありがとう。大分効果があったみたいだよ」


 そう言ってビートが笑顔を見せる。手渡されたリストを見てアレンが呟いた。


「……らしいね」

「え?」

「リストに睡眠薬がない」


 無くなった睡眠薬の代わりに書かれているのは以前販売したハーブティー。ドルマン医師の判断でこちらに切り替えたらしい。


「ははっ。そうなんだ。医師も本人も驚いていたよ」

「薬も使い続けてれば耐性が出来て効かなくなるものもあるからな」


 ハーブティーにしてもずっと飲み続ければ体が慣れて効果が薄くなるかもしれない。まぁ、わざわざ忠告しなくともちゃんとドルマンが分かっているだろうが。

 今日のリストの中には薬の原材料である植物の根なども入っていた。どうやらドルマンは自分で調合もするようだ。背後の棚に並んだ瓶の中からその根を取り出し量っていると、ビートが話しかけてきた。こうして向けられる彼の笑顔はどこか甘ったるくて、リリアが彼に憧れる理由が推し量れる。


「ねぇ」

「ん?」

「その方が、是非御礼をしたいと仰っているんだけど、時間あるかな?」


 その方というのはドルマンではなく、不眠症に悩んでいた患者の事だろう。王室付のドルマンが診ているのだから身分の高い者なのだろうが、そんなことアレンには関係ない。

 量った根を袋に詰めながら、アレンは素っ気無く答える。


「礼なら此処に来いって言っといて。悪いけど、オレ一人しかいないから店を空けられないんだ」

「そう? 残念だな。その方も多忙な人だから、多分中々此処まで来られないと思うんだよね」

「なら態々礼なんか不要だよ。こっちも仕事でやってんだ。その分の御代は貰ってるんだし、それ以上はいらない」


 突き放したような言い方だったが、ビートは気分を害することなく笑顔を見せる。


「ははっ。君は気持ちの良い人だね」

「?」

「それじゃあ、また」


 会計を済ませると、爽やかな笑みで別れの挨拶をして颯爽と去っていく。なんだか無駄に爽やかな奴だ。


「ミルネ、補充しなくちゃな」


 元々沢山の量を常備していない種だったのだ。このまま愛用してくれるのは嬉しいのだが、一月程で無くなってしまうかもしれない。丁度明後日が休みだし、ミルネは春から初夏にかけて群生するからまだ西の森に入れば採れるだろう。


「あ、そう言えば……」


 スタスタと店のドアに近付き、開けて外を覗く。だがそこにリリアの姿はなかった。


(店を抜けられなかったのか?)


 まぁ、たまにはそんな日もあるだろう。店内に戻って空瓶の整理でもしようかな、と思ったその時、カウンター横に置いてあった木箱がガタッと動いた。


「…………」


 業者からまとめて購入した薬包紙と包装紙が入った大きな箱だ。嫌な予感を抱きつつ近付いて箱を開けると、中に探していた幼馴染がいた。やはり今日も頬を染めて悶えている。


「我が人生に一片の悔い無し!!」

「お前……いい加減にしないと訴えるからな」


 いつの間に侵入したのか全く気づかせなかった幼馴染の手腕に、背筋が寒くなるアレンだった。

 

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