3.顎鬚とそばかす
「なんだよ。随分寂しい所にあるな。本当にここであってるのか?」
青い屋根の小さな店。裏は小さな畑と西の森が広がるばかり。王都の端の端。人通りのある場所から外れた所にある薬屋の前に騎士が二人立っていた。こげ茶の髪に顎鬚を生やした長身の騎士が首を傾げれば、少年にも見える幼い顔の騎士がその背中をどんっと叩く。
「地図では間違いないですよ。ほらとっとと入って」
「わーってるよ」
木製のドアを開けれると小さなドアベルが音を立てる。珍しい陶器製のベルは澄んだ音色でお客を歓迎した。静かな店内に足を踏み入れ、長身の騎士は中を見渡す。
「……いらっしゃい」
「うわっ! 人が居たのか! 驚かせんなよ」
「…………」
そっちが気づかなかっただけだろ、とアレンは心の中で悪態をつく。前回のことがあって騎士に良い印象を持っていないアレンは相変わらず愛想が良くない。けれどそんな店主を見た騎士は予想に反して笑顔を見せた。
「はははっ。聞いていた通り愛想の無い店員だな」
「……。ご用件は?」
前回の馬鹿よりもまともな騎士だったようだ。先週来ていた騎士の内、一体どっちにアレンの評判を聞いたのか気にはなったが、余計な事は言わずに手を差し出す。すると隣の若い騎士がメモ書きを差し出した。砂色の髪と頬のそばかす。アレンよりも歳下ぐらいに見える。
「このリストにある薬を受け取りに来ました」
「了解」
今回は薬が七種類。どれも常備しているものだ。リストの薬を手際よく量り、種別に包んでいく。その動作が珍しいのか、待っている間騎士達はアレンの手元や使う道具を眺めていた。此処を親と一緒に訪れる街の子供達のようだ。
用意した紙袋をカウンターに置くと若い騎士がそれを受け取った。隣で長身の騎士が布袋からコインを取り出す。
「ほい。んじゃ、これお代な」
「どうも」
「ははっ。そんな下ばっか見てっと背が伸びないぞ、ボーズ」
「!?」
自分よりも大きな手がぐりぐりと頭を撫でる。ぐちゃぐちゃにされた銀髪の腹いせに、アレンはその手をパシッと払った。
「余計なお世話」
すると何故か若い騎士もアレンに加勢した。
「ほんとですよ」
「あ、なんだよお前まで。チビだからってひがむなよな」
「ひがんでません!! もう行きますよ!!」
「へいへい。んじゃ、またなボーズ」
「まいどー」
ひらひらと手を振って、長身の騎士は若い騎士を追いかけ出て行った。前回とは違う意味でなんとも騒がしい客である。すると彼らと入れ違いにまたもや騒がしい幼馴染が飛び込んできた。
「ちょっとアレン!! 今の! 今の!」
「そんな大声出さなくても聞こえてるっつーの。今度は何だよ?」
「今のロイヤード様じゃないの!?」
「いや、だから知らないって。しかもどっちのこと?」
「へ? どっちって?」
「二人いただろ?」
こげ茶の髪に顎髭の騎士と砂色の髪をした若い騎士。それを指摘すればリリアは唖然とした。
「……ロイヤード様しか目に入らなかったわ」
どうやら幼馴染のセンサーはどこか故障しているらしい。
「お前何気にヒデェな。んで、そのロイヤードってヤツが何? 今度はお婿さんにしたいナンバー何なの?」
「5よ! ナンバー5!! ロイヤード様はね、市井の出でありながら騎士団の副隊長まで上り詰めた有能な人なの。はーっ、続けてトップファイブを拝めるなんて眼福だわぁ」
神に祈るように両手を組んでくるくると回るリリア。こいつはどっかぶっ飛んでいるな、と思いながらアレンははたと気が付く。
「副隊長より昨日のヤツの順位が上ってことは、やっぱり貴族の金持ちが良いってことか? 女って現金だなぁ」
「あら! 将来を考えれば重要な事よ! ま、副団長ならそれだけで良いお給料はもらってるでしょうけどね」
「女って……」
街にはリリアのような少女が溢れているらしい。年頃の女は怖いとアレンは思った。