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15.予感と合鍵

 

「成る程。裏口か」


 表のドアは閉まっているので、合鍵で裏口のドアを開けようと手をかけているリリアを後ろから眺めながらユファニールが呟く。この合鍵はリリアの一家が預かっているものだ。だが、一度鍵を差し入れ回した所でリリアが首を傾げた。鍵を回した筈なのにドアが閉まっていたのだ。つまり最初から裏口は開いていた事になる。


「あれ? 鍵開いてたみたいですね……」

「!?」


 それを聞いたユファニールの表情が一瞬で厳しいものに変わった。一方リリアはまだ中にアレンがいると思ったようだ。


「アレーン! いないの~?」


 再度鍵を開け、真っ先にリリアが店内へ足を踏み入れる。それに続こうとしたユファニールをヤナが呼び止めた。


「殿下。これを」


 ヤナが指差した先にあったのは小さな菜園。植えられていたのは野菜ではなく、薬草類。その畑が数人の足跡で荒らされていた。足跡の大きさから推測するに成人男性のもの。

 そこで中を見回っていたリリアが顔を出した。


「殿下。やっぱり中には居ないみたいです。それに一階の床が土で汚れてて……」


 先程まで浮かれて始終笑顔だった彼女の顔が不安げなものに変わっている。嫌な予感が当たったとユファニールは歯噛みした。


「ヤナ。騎士団に連絡を取って直ぐにアレン捜索に当たらせろ」

「はっ。殿下は?」

「傍に近衛が居るだろう。そいつらが来るまでここで待機している。彼女は食堂まで送ってくれ」

「承知しました」


 王子が外出するのに共が騎士一人の訳はなく、周囲に分からないよう離れた場所から数人が護衛していた。ヤナにはリリアを送り届ける役と伝令を任せ、ユファニールは薬屋で護衛役の騎士達が到着するのを待つ事にした。今日の供がヤナで良かった。もしシグレイだったら、即王城に強制送還される所だ。けれどアレンの無事が分からないまま、ここを去る気はない。


「リリアと言ったな。合鍵をこちらで預かってもいいか?」

「あ、はい。あのアレンは……?」

「今の時点ではなんとも言えないが……、何もないにしろ必ず食堂には連絡を入れよう」

「分かりました」


 不安は隠せないようで、合鍵を渡した後も中々リリアの足は動かない。


「あの……殿下……」

「どうした?」

「アレンを……よろしくお願いします」


 そう言ってリリアが頭を下げた。体の前で握られた両手が強張っているのが見えて、ユファニールは胸が突かれる思いがした。ここでもしアレンの身に何かあれば、今後自分がアレンに関わる事は許されない。他の誰でもない、自分自身が許せない。


「……あぁ。必ず無事にアレンを君の下に帰そう」

「はい」


 ヤナに背中を押され、リリアが踵を返す。だが咄嗟にユファニールはその背中に声をかけていた。


「一つだけ聞いていいか?」

 

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