13.正しい幼馴染のあしらい方
「正直に言いなさい。アイレーン=サングス」
今、アレンの前には仁王立ちで自分に詰め寄っている幼馴染がいる。因みにその形相と言ったら、三軒隣のやんちゃ坊主も裸足で逃げ出しそうな勢いだ。更に言うと、幼馴染のリリアがアレンを本名で呼ぶのは本気で怒っている時である。
それらを踏まえた上でアレンが取る行動は一つしかない。何しろこの幼馴染を怒らせると怖い上にしつこいのだ。そう、しつこい。怖いよりもしつこいのが、この幼馴染のタチの悪い所である。それは付き合いの長いアレンが一番良く分かっている。
という訳で、アレンは正直に白状した。
「ビートの案内で王城に行ってました」
折角黙っていたのに何故白状する羽目になったのかと言うと、行きは良かったが帰りの馬車を降りた所を目撃されてしまったのだ。送り迎えに使われたのは王城の紋章入りの馬車。当然、そこから一般人が下りてくれば何事かと人々は注目する。そんな野次馬の中の一人がリリアにそのことを即刻密告したらしい。女の情報網侮りがたし。
そんな訳で帰ってきた早々アレンは彼女に責められていた。
「やっぱり!!! どうして! どうしてそんな大事なこと教えてくれなかったのよ!!! あぁぁぁ!! 私とした事が折角ビート様とお近づきになれるチャンスだったのにぃぃぃ!!!」
「……いや、教えた所で親しくはなれねぇだろ」
「何言ってるの! アレンがお世話になるんだから、そこで挨拶するのが幼馴染である私の役目でしょう!!」
「お前は俺の親父か」
「そうよ!」
「ちげぇよ!!!」
的確なツッコミだったが、興奮状態の幼馴染には馬耳東風。これは次にお使い騎士が来た時にえらい目に合いそうだ。
「ねぇねぇ、アレン。次はビート様何時来るの?」
「いや、知らん」
「何でよ! ちゃんとそこ打ち合わせして来てよ~~!!」
「それこそ何でだよ! 俺はあいつのマネージャーじゃねぇ!」
「やぁね、アレン。そんなの当たり前じゃない。マネージャーと言えば常にお傍にいて心身共に支えてあげるのがお仕事よ? そのポジションは私の為に取っておいてくれなきゃ!」
「え? 何? お前あいつのマネージャーになりたいの? だから隠密行動に磨きをかけてるの?」
「え~、そこは仕事じゃなくてプライベート専門のマネージャーって言うかぁ~。未来の嫁って言うか~」
興奮状態から、頬を染めて急にもじもじしだしたリリア。その急激なテンションの変化には毎度ついていけない。この幼馴染の言うファンクラブなるものに所属している乙女達が皆こんなだったら、そこは最早クラブじゃなくてカオスだと思う。
一度精神修行の為に滝行を勧めてみるべきだろうか。西の森に流れている清流に沿って北上すれば、丁度良さそうな滝に辿り着ける。いや、そこで彼女が無我の境地に達してしまったら、それはそれで誰も太刀打ちできなくなってしまうだろう。そうなればこの国が精神鉄壁の乙女達に制圧される日も近いかもしれない。
(フッ……、なんてな……)
ついつい思考回路がおかしな方向へ飛んでしまうのは、幼い頃からリリアの妄想話に付き合わされたアレンにいつの間にか備わった現実逃避の技だ。
因みに、城へ行った用件は薬の件でドルマン医師に呼ばれたと言ったらあっさり納得してくれたが、ここでお婿さんにしたい男性ナンバーワンと食事してきたなんて明かせば明日の朝日は拝めまい。この秘密だけは墓場まで持って行こうとアレンは心に硬く誓った。




