王、古城へ
古城占拠した日の夜、アルの宙城では城を上げての宴会が宙城唯一の居酒屋で催された。
ある者は宙城へ来るまでの魔獣に怯えていた生活を面白おかしく語り、ある者は魔獣と戦った武勇伝を大袈裟に熱弁する。
その全ての人々は皆、笑顔ばかりであった。
アル『…良いものだな。たまにはこういう物も。』
ノア『マシュター!だめでひゅよ〜…じぇんじぇんのんでないやにゃいでひゅか〜…ヒィック…』
アル『ノア、半分位何を言っているのかわからんぞ!?』
ノア『きょうはおまちゅりなんでひゅきゃらもっ……と、のまないとだめれす!…おかみひゃ〜ん!こっちにヴォルガニックウォッカ…ロックでひとつね〜!』
女将『あいよ〜。ちょっと待っててね〜!』
アル『ノア、飲み過ぎだぞ。その辺にしておけ。』
ノア『だいじょぶれす!わたひはりゅーじんのみきょなんでしゅから…まだま…だ…これか………zzzz』
ノアは何故か敬礼の格好のまま寝てしまった。
アル『ノ……やれやれ。女将!ノアの酒はいい!ちょっと来てくれ!』
女将『あーい!…って、あらら?ノアちゃん潰れちゃったわねぇ…ちょっと〜鍛冶屋の奥さん、手を貸して〜!』
女将『王様、ノアちゃんはウチの仮眠室に寝かせておきますね。』
アル『あぁ。すまないが宜しく頼む。』
奥さん『あらあら。ノアちゃん…ずいぶん幸せそうな寝顔だ事…。』
女将『奥さん、ノアちゃん奥に一緒に運ぶからお願いね。』
奥さん『はいはい。…せーの。』
女将と奥さんは二人でノアに肩を貸し、ゆっくりと奥へ連れて行く。
女将『王様、ノアちゃんを怒らないであげて下さいね。ノアちゃん、今日の事を自分の事以上に嬉しかっただけなんですから…。』
アル『あぁ。分かっている。それよりも女将、ノアの事何だが…』
女将『大丈夫ですよ。今日はウチに泊めさせて頂きますね。…取って食いやしませんからご安心下さいな。』
アル『ふっ。宜しく頼む。』
アルはそう言ってビール飲みほすと、
アル『皆、俺は明日古城に経つので帰るがそのまま続けてくれ。』
そう言ってアルは席から離れ、居酒屋の出口へ向かう。
そこへノアを寝かせて来た女将が帰ろうとするアルを見つけ、
女将『王様〜!たまには普段の日もいらして下さいね〜!お待ちしてますから〜!』
アルは声を出さず、振り返りもせずにただ右手を高く上げ、『分かった。』と答えた。
アル以外の者は誰一人帰らず、宴はまだまだ続きそうだ…。
翌朝。
ノア『…って……頭が…痛っ……ここは?』
ノアは窓から射し込む朝日でようやく目を覚ました。
女将『ノアちゃんおはよう!ここはウチだよ。昨日は途中で寝ちゃったからここまで鍛冶屋の奥さんと運んで来たのさ。…王様にも言って有るから大丈夫よ。』
ノア『…んー…腕相撲大会で鍛冶屋のロワンさんが優勝している所までは覚えてるんだけど……はっ!?今何時ですか!?』
女将『今は…えーっと…ちょうど7:00をまわった所だね。』
ノア『いっけなーい!今日はマスター古城に経つから早く出かけるって言ってた!…だからあまり飲まない様にしようと思ったのに…資材交換所のザックさんがやたら勧めて来るんだから…。』
女将『あいつは飲むのも飲ませるのも好きだからね〜…それよりも行かなくて良いのかい?』
ノア『そう!行かなきゃ!女将さんありがとうございました〜!』
ノアは女将への礼を簡単に済ませ、城へ全力疾走で帰って行った。
途中、昨日の宴会がよっぽど遅くまでやったのか道の途中で横になっている者やまだ自分の店先で飲んでいるザックに早く帰る様、声を掛けながら。
バタンッ
ノア『マスターすいません!昨日の事は…殆ど覚えてないけど…とにかくすいません!』
アル『あぁ。いい!それよりも古城にもう行くぞ!』
ノア『でも、マスター…
アルはノアが話している最中に部屋を出て行ってしまった。
ノア『…マスター…怒ってますよね…はぁ…。』
ノアは肩を落とし深い溜息をついた。
ノアは落ち込みすぎて魂が抜けた様な顔をしながら執務室の自分のデスクに座るとデスクの上に手紙がある事に気付いた。
ノア『手紙?…マスターからだわ。』
アル『ノア、俺がここまでこれたのもそなたのおかげだ。これからも宜しく頼む。あと、これは餞別だ。まぁ、俺の使い古しだがな。はっはっは!』
手紙の下に黒曜石で作られた万年筆が置いてあった。
ノア『マスター…お気を付けて。』