いじめ撲滅実験都市
これは決して正しい答えとして書いていません。なんの学術的根拠もないのであくまでフィクションとして読んでください。
僕の生まれる少し前、この国は悲惨ないじめ事件が起きた。いじめられていた女子生徒が売春を強要され、非合法な仕事をさせられたあげくに最後は殺されてイヌの餌にされたという事件だ。当然、大問題になったが女子生徒にも問題があるという意見が出たせいでいろいろな人たちが口論になった。最悪なことにそれが原因でさらにいじめが発生するといういじめスパイラルが起きたのだ。授業で一連のこの流れをいじめ転換期と習ったのは記憶に新しい。
政府はこの事件を重く受け止めいじめを無くすべく様々な研究を開始した。その結果一定の成果が見込める方法というのが見出され、その実験を行うことになったのだ。
それは対称実験者を無作為に選びひとつの都市を新たに作りそこを実験都市としてそこに実験用の学校を作る。そして全ての生徒を完全に平等にするというものだった。
「起立、礼」
今日の号令当番の1A-25さんが号令をかける。肩まで切りそろえられた髪が礼に合わせて少し揺れる。他の女生徒も同じ髪型で同じ表情で同じ顔で礼をする。男子も同じだ。みんなが同じ姿勢で礼を終えるとまた今日も実験が始まるのだ。
この実験都市で行われているのはいじめを無くす方法だ。どこかのえらい学者が提案したこの実験の中身は一言で言えば全ての平等化だ。いじめられる方に原因があるという意見が出たことがある。そのときに例えとしてあげられたのは””空気が読めない””体格が貧相””コミュニケーションが下手くそ””勉強が出来ない”といったものであった。ならばこれらの要因を全て平均化した場合いじめは発生しないと言う考えから実験は始まったのだ。具体的には身体の平均化、環境の平均化、能力の平均化、個性の平均化で構成されているらしい。
身体の平均化は単純に容姿、声、体格といった体に関わる全てを皆同じにするのだ。当然、最初は違うから皆手術で変えられる。技術の進歩は凄まじく本当に皆同じになってしまったのだから恐ろしい。THE平凡のモデルとして僕が選ばれたようで皆、僕と同じ顔、同じ声で話すのは正直気持ち悪いが場を乱すのは良くないから黙っている。
環境の平均化はもっと単純で同じ顔の両親に同じ家、同じ経済状況に同じ教育方針。テレビやマンガ等も同じものしかなく、インターネットは無い。服など個人の特徴が出るものは指定されているものを着る事になっているので差は出ようがない。話題に遅れないためにテレビの時間も決められていて見ないといけないのだが、正直個人的にはテレビは無くても良い。
能力の平均化は正直よく分からないが、出来すぎても出来なくてもいけないらしく、テストで決まった点数が2回以上取れないと更生施設に送られるらしい。更生施設から帰ってきた人は余り見たことが無いが出来なかったことが出来る用ようになっていたり、出来たことが出来ないようになっていたりするようだ。噂に聞いたことがあるが手術もあるらしい。もっとも、その噂をしていた友人の1A-15は更生施設に送られたらしくまだ帰ってきてはいないようだ。君子危うきに近寄らずだ。気にしない、気にしない。
個性の平均化は目の前で見たことがある。以前、女子の一人と昨日見たテレビの話をしていたときだった。
「昨日のテレビ凄かったね。」
クラスメイトでも特に仲の良い女子の1A-25さんが昼休みに入ると話しかけてきた。彼女は雰囲気や話し方が個人的に気に入っていて正直嬉しかった。この時の僕の心臓は彼女の聞こえるかもしれないくらいに高鳴っていたのを覚えている。
「まさかパンダがヒグマに勝って、ウサギに負けるとは予想もしなかったよ」
「異種格闘戦とは予告あったけど本当に異種だったね。私、ちょっと興奮しちゃったよ。」
見かけによらないが……いや見掛けは同じだが、彼女は格闘技が好きらしい。嬉しそうに話す彼女に相槌をうちながら僕の感想を話す。
「個人的にはウサギの後ろ足があんなに強いのに驚いたよ」
「うふふ…そうだね。でも、ウサギはあと26の秘密があるのです」
彼女はそういって微笑んだ。花が開いたように見えたその笑顔が同じ顔の女子の中でも特別に可愛いく見えた。
その瞬間だった。けたたましく警報が鳴り響いた。
「いじめ要因の可能性のある個性を確認。担当官は大至急現場に急行せよ。繰り返す……」
アナウンスとともにすぐに武装した男性が6人教室になだれ込んできてあっという間に彼女を取り囲んだ。
「1A-25、個性によるのいじめ要因の可能性が確認されたので更生施設へと移送します」
「な、なんで?どうしてなの?!」
「質問は受け付けておりません」
そのまま腕を押さえつけられた彼女が連れて行かれるのを僕は見ていることしか出来なかった。
それから1週間後、彼女は帰ってきた。
「1A-25さん、無事だったんだね?大丈夫?!」
「うん、ごめんね。もう大丈夫だよ」
彼女はそう言って皆と同じ角度に唇を上げて同じ笑顔を見せた。
(ああ、もうきみの笑顔は見れないんだね…)
この時の僕はそう呟かないように抑えるのに必死だった。
いつもと同じようにHRが進んでいく。そういえば更生施設に送られた友人の1A-15。施設でいじめられていないといいなぁ。
感想、批判お待ちしております。(罵倒は泣いちゃうからね)