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その7



     七



「わが主、レミリア・スカーレットはこう申し上げるよう言いました。今年の冬至の夜は、里の人々にとってきわめて危険な夜になる。日が落ちたら、戸を堅く閉ざし、夜が明けるまでけして外に出ないようにすることを薦める、と」


「いったいそれはどういうことだ?」


 慧音は当惑したように言った。


「……もともと里の人達は夜中にむやみに出歩いたりはしないはずです。特別に支障をきたすことはないでしょう」


 寺子屋の玄関の土間に、上り框からすこし離れて立っている十六夜咲夜は表情を変えずに答える。


「しかし、なぜ今年の冬至に限って? 去年はそんなことを言いに来なかったじゃないか」


「去年の冬至と、今年の冬至ではすこし事情が違うのです。これは、あくまでも里のみなさんを守るための警告です。まだ冬至までには余裕があります。ぜひ、みなさんにお知らせください。それでは」


 頭を下げて踵を返そうとした咲夜に、慧音が声をかける。


「博麗の巫女にも、このことを知らせてかまわないのか?」


「……まあ、あの人なら何か事が起きたらすぐにやって来るでしょう。ですが、事前に知っていていけないということはありませんね」


 咲夜は静かにそう言うと、引き戸を開けて再度会釈をすると玄関から出て行った。



     **********



 慧音さんの寺子屋を訪ねた私は、座敷に通され、資料の件も含め、今後の授業の計画について大まかなところを話し合った。


「週二回に? 大丈夫ですか、そんなに神社を留守にして」


『いやまあ、留守にするといっても午前中だけですし……それに本来の主がたいていはいますから』


「それはそうですが、ちょっと申し訳ないなあと思いまして。もちろん、こちらとしては大いに助かるのですが」


 慧音先生はすこし考え込み、それから顔を上げて言った。


「こうしましょう。このあたりではそもそも曜日の感覚が薄い。ですので、一の日と五の日に来ていただくということにしてはどうでしょうか。そのほうが子供たちにも分かりやすいと思うのです。そうすると、だいたい月に六日、ないし七日ということになります」


『なるほど。ではそうしましょうか』


 急に増やすとこちらに負担がかかると考えているのだろう。それはそれで意を汲んだほうが良さそうだ。


「あとはだいたい良さそうですね。教材などの件はまた考えていくことにしましょう。時刻は辰の上刻あたりまでに来ていただければ問題ないです」


『分かりました』


 午前九時というところだろう。時計というものがあまり普及していないので、時間に関してはあまり厳密ではないらしい。


「ところで……さきほどの資料ですが、紅魔館の地下図書館から借りるということでしたね」


『ええ、そうです』


「なにか、交換条件のようなものはなかったのですか」


『いや、それはとくにありませんよ』


 強いて言うなら、あの図書館内での戦闘が交換条件だったと言えないこともないが、それを話したら逆に誤解を受けかねない。


『レミィにとってはその程度はささいなことなんでしょうしね』


「そうですか……」


 慧音さんの立場から見ると、私とレミィの関係は理解が難しいのかもしれない。実際には、あのフランが言っていたように、私自身が『空っぽ』であるがゆえの気安さが生んでいる関係でしかないのかもしれないのだが……。


『まあ霊夢自身があまり貸し借りとかを気にする性格ではないので、私もつい似たような振る舞いになっていますが……私たちと紅魔館との関係を気にすることはないと思います。慧音さんの立場も分かりますが』


 そもそも向こうも慧音さんが寺子屋を運営していることを知らない可能性もある。私もあえてその点には触れていない。


「いや……すいません、余計なことを訊いてしまいました」


 慧音さんは恐縮したように言う。


 と、障子の外から声がした。


「慧音、いるか?」


「ああ、はい」


 慧音さんが返事をすると障子がからりと開いて妹紅が姿を現す。


「お、チビもいたのか」


『やあ、久しぶり……というほどでもないか』


「はは、今回はそうだな」


 妹紅は快活な笑みを浮かべ、慧音さんに顔を向ける。


「これ、ちょっと里の知り合いから貰った。昼飯の足しにでもなるかと思って持ってきた」


 片手に下げていた風呂敷包みには野菜類がぎっしりと詰まっていた。


「わざわざありがとうございます」


 慧音さんは包みを受け取ると、さりげない調子で言った。


「もし良ければ、お昼をご一緒に……」


「ああ、ま……そうだな」


 妹紅は軽い口調で返事をしているが、すこし表情がぎこちない。


『……それじゃあ慧音さん、私はそろそろ失礼することにします』


「待てよ、チビ」


 妹紅が少し慌てたように言う。


「せっかくだから昼飯ぐらい付き合ってもいいじゃないか。その体だから、食事そのものが無理なのは分かっているが、話ぐらいするのはいいだろう?」


『まあそうだが』


 なんとなくここは遠慮したほうがいいのではという気がしたのだ。もしかすると、慧音さんは何か妹紅に個人的な相談があるのかもしれない。


「そうですよ、チビさん」


 慧音さんもやや焦り気味の口調で言う。


「今後のこともありますし、いろいろとお話を聞きたいこともあります」


『そうですか……』


 そう言われてしまうとこちらも断れなかったので、やや微妙な気分ではあったが、ふたりの昼食に同席することにした。



~その8へ続く~

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