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その24


     二十四



 突然、暗闇に光が花火のように拡がったかと思うと、上空の二箇所から輝く光の群れが噴き出し始めた。淡い光を帯びて曲線を描くように動くのはおそらく霊夢、そして輝く線を残像のように描きながら飛ぶ光弾はおそらくレミィのものだろう。打ち出される攻撃の源がめまぐるしく動きまわり、空間が乱雑にかき混ぜられているように見える。


 と、ふいに誰かが私の近くに姿を現した。


「!……咲夜さん」


「始まってしまいましたね……」


 沈痛な表情をした咲夜さんの横顔が、光の群れの明滅によって薄く照らし出される。


『いったい、レミィに何が起こったんですか?』


「それを話しに参りました」


 咲夜さんはこれまで冬至の満月に魔力がピークに達するため周囲への影響と万が一の事故発生を考慮してパチュリーが時限式の封印魔法を姉妹に施していたこと、それが今日の月蝕と重なってしまったために、予想外の現象として人格の変化のようなものが起きて、封印を自ら破り、今回の行動に至っていることを説明してくれた。


『でも、今のレミィの最終目的は何なんですか? なぜ霊夢と戦っているんでしょう』


「それは……正直なところ、わたしにはよく分かりません」


 咲夜さんは眼を伏せる。


「お嬢様がおっしゃっていたこともどう解釈していいのか判断しかねるところがあって」


『咲夜さんの立場では、手出しできるような状況ではないでしょうね』


「立場はともかく、あの戦いの中に第三者が介入するのは技術的にも物理的にも難しいと思います」


『そうですか……』


 このまま黙って見ているしかないのだろうか。



     **********



 すさまじい数の大小の紅い光弾が打ち出されては群れをなし、次々に拡がっては霊夢の身体の側を高速で通りすぎてゆく。実際には、霊夢の身体は小刻みに、しかも必要最小限の動きだけを繰り返している。


 光弾を撃ち出す敵の姿はほとんどおぼろげにしか見えないが、弾が打ち出される中心ははっきりしている。霊夢の眼はその動きをつねにトレースし、それに合わせて身体の向きも変化している。ほとんど自動的といっていいその挙動は、霊夢の優れた動体視力と積み重ねられた認識パターン、そして天性の運動能力が一体となって機能している証左である。


 だが、彼女の戦いの専門家としての真の根幹は、ジャイロのように安定した精神の均衡にある。それは恐怖を生み出さないための均衡といってもいい。


 ただ、この激しい戦いの中で、彼女のこの均衡はごくわずかながらではあるが、齟齬を生み始めていた。


 ひときわ高速の光弾の群れが通り過ぎる。と、一瞬ではあるが、弾に対する反応がずれた。


「!」


 かろうじてそのずれは次の瞬間に修正され、事無きを得る。だが、霊夢の意識の底、言葉になる直前の認識の層に、自分自身への戒めを示すサインがほんの一瞬、現れる。その間にも光弾の群れは撃ち出され続けている。


 吸血鬼であるところのレミリアの体力は、特別な能力をもってはいても所詮ヒトに過ぎない霊夢に較べれば桁違いに大きい。魔力が満ちていれば、再生能力も強靭だ。まともに殺し合いをしたら勝負にはなり得ない組み合わせなのである。


 霊夢は赤い光弾の間隙を縫って霊気を乗せたお札を弾丸のように撃ち込む。それは直線的のようでいて敵の動きに合わせて追尾する動きを見せ、敵を捉えたかに見えたが、わずかにそれる。


 ふいに、レミリアが霊夢に接近してくる挙動を見せた。こちらに向かってくる光弾の見かけ上の密度が急激に増える。一瞬、霊夢の中に後方に下がりたくなる衝動が生まれるが、反射的に抑える。


(おかしい)


 短い言葉で、疑念が霊夢の脳裏に走る。


 間合いを詰めるか否かは、そのときの一瞬の判断でしかない。だがそこに恐怖感が入り込んでしまうと正しい動きはできなくなってしまう。現に、衝動を抑えるという不自然なことをしてしまったために、間合いが近くなりすぎて意識的な再調整を余儀なくされ、動きがぎくしゃくしてしまった。


(まさか)


 その疑念そのものが、すでに心の均衡の破れのあらわれであることを、霊夢は自覚出来ていなかった。



     **********



 私と咲夜さんは森の中でも比較的高さのある大木の枝の上に立ち、戦いを見守っていた。


 空中で交差する輝線の動きを眺めているうちに、霊夢が押されているな、と私は感じた。


 それは弾幕による攻撃よりも、お互いの位置の取り方から読み取れる。霊夢は本来なら弾を回避しながら接近して近距離から有効なダメージを与えるというやり方を得意としていたはずだ。だが、間合いを詰めるどころか、むしろ相手から詰められては回りこむように下がっているように見える。


 このままではまずいのではないか……?


「チビさん!」


 背後からの声に振り向くと、空中を飛行しているアリスが近づいてきていた。


『紅魔館に行ってきたのか?』


「ええ……あ」


 一瞬アリスはそばに咲夜さんがいることにすこし驚いたようだったが、すぐに言葉を継いだ。


「魔理沙に霊夢たちがどういう状況か見てこいって言われたんだけど……いったいどのぐらい続いているの?」


 咲夜さんが懐中時計を取り出して言った。


「もう三十分近くは経っています」


「そんなに……! それで決着がつかないなんて……ちょっとおかしいんじゃない? スペルカード戦なら、使うスペルの数が有限なんだから、出し尽くせば終わりになるはずよ」


『どういう取り決めになっているのか分からないしな』


「……もしかしたら、通常のルールでの戦いではないかもしれません」


 咲夜さんが眉を寄せて考えこむような顔をする。


「なにしろ、わたしがこう言うのもなんですが、お嬢様もまともではないようなので……」


「それは問題ねえ」


 誰もいない空間から聞き覚えのある声がした。


「こんな嫌な感じの晩に吸血鬼さんと戦おうっていうのもどうかしてるけど……そもそも、ルールから外れた戦いを巫女自身がやるというのが間違いね。常軌を逸してるわ。何か、よほど頭に来る条件でも出されたのかしら?」


 するりと紫さんの全身が現れる。


 咲夜さんが、少したじろいだような顔をする。


 その反応に何かを感じ取ったのか、紫さんが問いかける。


「もしかして、メイド長さんは知ってることがあるんじゃない?」


「あ……あの」


 咲夜さんが辛そうな顔をして私を見た。


 するとアリスが、はっとしたように言う。


「もしかして、聞いてないの? レミリアが飛び出していったときに、あの人形を取り戻しに行くって言ったらしいのよ」


『!』


 じゃあ、あの戦いは……!


「いけないわよ、チビちゃん」


 鋭い声だった。


 紫さんの顔つきは厳しい、というより無表情に近かった。


「あの戦いはわたしたちの誰にも止められないし、介入もできない。戦いの理由がなんであろうとね」


『……ですが、間違った戦いだと先ほどおっしゃいました』


「ええ。でもね……時として間違いをただそうとすると、間違いに見えることがあるの。これは、言葉遊びではないのよ」


『…………』


「もうすこし辛抱してみてちょうだい。おそらく、最悪の事態にはならないはずよ……それとね、言わずもがなのことだけれど」


 紫さんは眼で咲夜さんを示した。


「見守るのが辛いのは、あなただけではないのよ」



~その25へ続く~

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