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展望台  作者: 朝霧幸太
1/5

夕空



 ふと窓に眼を遣った時だ。



 ブラインドの隙間からオレンジ色の空が見えた。



 僕は仕事の手を止めて立ち上がり、窓辺に歩み寄った。



 西の空が茜色に染まり、輝いている。



 手前に浮かぶ雲は灰色のグラデーションを為して連なり、ゆっくりと流れている。



 人の手では決して造り出せぬ幻想的な光景に、僕は息を呑み、しばし見とれた。



 画家ならば、これを一幅の絵に留めて残したいと筆を執るだろう。



 写真家ならば、迷わずシャッターを切る筈だ。



「あれはっ?」



 夕空に影絵が浮かび上がった。



 由香里だ!



 雲が、二年前に亡くした妻の面影を描き出したのだ。



 由香里……



 時よ止まれ!



 もう少し、あと少しだけ、この夕空を眺めていたい。



 そうだ! 屋上だ!



 僕は部屋を飛び出しエレベーターを待つ時間を惜しんで階段へ向かった。



「あ……葉山さん。ちょっと訊きたいことがあるの」




 部長秘書の桐原朱美が通路で呼び止めたが、僕はそれを振り切って階段へ駆け出していた。



「すまない! すぐに戻るから」



 僕は階段を使い3階から屋上へ一気に駆け上がった。



 由香里……待っててくれっ!



 ドアを押し開けて屋上へ飛び出した。



 だが、無情にも、その光景は刻一刻と姿を変え、由香里の影絵は見えなくなっていた。



 街の彼方へ陽が沈んだのだ。



 はあはあと肩を揺らしながら息を継ぎ、既に暗くなった夕空を、僕は茫然と眺めた。



 バカげている。



 由香里は死んだのだ。



 2年前に39歳の若さで呆気なく逝ってしまった。がんだった。



 もう、由香里は、この世の何処にも存在しないのだ。



 由香里……




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