良い結末も、悪い結末も、すべてがその人の選択の結果です。~婚約破棄されたのを機に生きたい道を生きることにしました~
「じっとしてね」
「うん……」
「ちょっとだけ待っててね」
「分かった……」
私、エリーは、その日、転んでしまって泣いていた町の子どもの擦りむいた膝に回復魔法を使った。
勢いよく転んで怪我してしまった子が可哀想だったから。
何かしてあげれたならと思って。
男の子とはいえまだまだ小さな子ども。膝を怪我すればきっととても痛いだろう。私も小さい頃擦りむいたことがあるから分かる。あのじんわりとした痛みと不快感は今でも思い出せるほど。
だからこそ、目の前のその子を救いたかった。
「はい。これでもういいわよ」
「あ……痛いの、治って……」
「大丈夫そう?」
「す、すごいよ! 大丈夫! もうちっとも痛くない!」
「なら良かった」
「お姉ちゃん、すごいよ! ありがとう!」
「どういたしまして」
――だがその様子を婚約者である彼アセッドに見られてしまい。
「エリー、お前……本当に、魔法を使えるのだな」
「そうなの」
「魔女め!!」
「ええっ……」
「魔法を使える女など、穢れた魔女だ。そのような女と結婚などできない。お前との婚約は今この時をもって破棄とする!!」
まさかの展開で婚約破棄宣言されてしまった。
「母さんが言っていた。魔法使いは穢れていると。特に女は、と。だが、お前が言っている魔法が使えるというのは冗談かと思っていた……だから婚約したが、まさか事実だったとは。それを知ってしまった以上、お前と結婚することは不可能だ。穢れた女の血を我が家に入れることは許されないからな」
そんな風に述べるアセッドの顔つきはこれまで一度も見たことがないくらい毒々しく冷ややかなものであった。
◆
あの婚約破棄の数週間後、アセッドは馬車に乗っていた事故に遭った。
負傷して動けない彼の前に現れた一人の魔法使いが治療するため魔法を使おうとしてくれたそうだが、彼はそれを拒否。穢れたくないから、などと言って拒んだそうで。
それにより、手当てが間に合わず、アセッドはこの世を去ったそうだ。
魔法使いを頼っていれば助かっただろうに……。
あるいは隣に私がいれば助けられたかもしれなかったのに……。
だがそれも彼が選んだ道。
彼がこの世を去ることとなったのは、単に、彼の選択の結果でしかない。
母親の「魔法使いは穢れている」などという主張を無条件に信じ、本質を自分の目で確かめなかった――そういう生き方をしていたから、彼は命を落とすこととなってしまったのだ。
回復魔法が無害なことなんて、少しでも冷静に見つめれば容易く理解できることだろうに。
◆
アセッドとの関係が終わった後、私は、もう恋とか愛とかはどうでもよかったので医務官として王城に勤務する道を選んだ。
得意とする回復魔法を誰かのために使いたくて。
偶然募集されていた王城勤務に応募した。
すると思ったよりあっさりと採用通知を貰うことができ、あっという間に王城で働くようになっていた。
そんな風にして十年近く働いていた私のもとへ、思わぬ出会いが舞い込んでくる――というのも、ある日突然一人の青年が私の前に現れたのだ。
「貴方がエリーさんですね」
「はい」
「十年くらい前、町で、擦りむいた膝を治してもらった男児です」
「え、っと……ああ! あの時の!」
少しして思い出す。
そうだった、あの時、私は男の子に回復魔法を使ったのだった……まぁ、それによって、アセッドに婚約破棄宣言されてしまったのだけれど……。
「思い出しました」
「ありがとうございます!」
今年から王城にも出入りすることとなったそうだ。
こんなところで再会することになるなんて。
運命とは不思議なものだ。
もう二度と会わないものと当たり前のように思っていたのに。
「あれから事業が成功して、今は結構忙しいんですけど、今年からはここにも出入りすることになりそうなので、よろしくお願いします!」
「こちらこそ」
こんな展開は欠片ほども予想していなかったけれど、でも、過去に救えた人とまたこうして出会えることは嬉しいことではある。その人が幸せそうであるならなおさら。あの時力を貸せて良かったな、と、純粋に思うことができるから。
「あと、実は……一つ、お伝えしたいことがありまして」
「伝えたいこと? 私に?」
「そうなんですよ! この後……少しお時間大丈夫でしょうか?」
「あ、はい、大丈夫ですよ」
その後、青年から伝えられたのは、長い時間をかけて彼の中に積み上がってきていた想いだった。
告げられた時はさすがに驚いた。
でも不快ではなかったから。
前向きに関わっていこうと思うことができた。
これからどんな未来が待っているのか――少しばかり、楽しみだ。
◆終わり◆




