VII.すごーく大変な杖の取得 後編
「はー、また探すのかよ」
面倒くさいなぁ、とは思うものの、杖の取得が楽しみになっている自分がいる。
アダは魔木に登り、魔法石を探した。
(んー。……あ、あった)
それは意外と近くにあった。これまでの苦労が何だったのか、とすら思える。
赤と緑が美しく混ざっている。本来は補色の近くに位置するのだが、何故か綺麗にマーブルされていた。
「よしっ」
アダは魔法石をとって、大事に胸ポケットに入れた。そして、魔木を降りる。
「おーい」
アダが空中にいたルネティアに手を振ると、それに気付いたルネティアが降りてくる。
「見つかりましたか?」
「あぁ、これだ」
「とても純度が高そうです。良いものを見つけられましたね。では、貴族学院に戻りましょうか」
行きと同じように、アダはルネティアとアレクシアに乗って、貴族学院に戻った。
「あー! やっほー!」
ブンブンと大きく手を振る人物――〈光明の英雄〉アンジェリーネ・ロード・ヴェヒターだ。
(何でこんなところに?)
「たまたま近くで任務でさー、ちょっと寄ってみたんだぁ」
ほのぼのとした態度の〈光明の英雄〉に、怪我だらけのアダは気が抜けた。
こういう日常が好きだ。
「そーいえば、アダ大丈夫? すっごい怪我してるけど。逆に、ルネティアはチョー綺麗だねぇ」
「いつも通りでしょう。というか、アンジェリーネ様だって、そうなってたことあるじゃないですか」
「あー、懐かしいねぇ。三人で傷だらけ、土だらけって最悪だったもん」
懐かしむように〈光明の英雄〉は笑う。アダには何故か、それが含みのある笑みに見えた。
(……気のせいだろ、多分)
「お話し中のところ悪いんですが、そろそろ移動してもいいですかね」
三十代の男――学院長が気まずそうにそう言った。先程まで〈光明の英雄〉と茶を飲んでいたらしい。
そうして、アダたちは移動した。
「そういえば、俺っていつ編入するんスか?」
アダは正確な年齢を知らない。多分十歳から十五歳辺りだろう、とは思っているが。
しかも、孤児であるため、戸籍も名前しか書いていないそうだ。年齢が分かる場合は書かれるらしいけど。
「んー、一応十三歳ってことになったねぇ。丁度、今年度の新入生と同じ学年になるよ」
養子縁組をしたときに、アダの年齢もすでに登録されていたらしい。
「そうなんスね」
あと、二年でここ――貴族学院に編入しなければならないのだ。
(やだな)
ここの方が楽しい。ルネティアや、たまに会う〈光明の英雄〉たちと過ごしていたい。
「着きましたよ」
学院長が声をかけ、アダたちは中に入る。〈光明の英雄〉は任務が入った、と去って行った。
(やっぱり、〈英雄〉は忙しい)
部屋はとても広い。そして、壁の一面が棚になっていた。そして、草――というか薬草の匂いもする。変な魔術具らしきものもあった。そして、大きな机と大量の椅子が並んでいる。
文官志望の学生や研究肌な先生が使用するらしい。共通の魔法実技でも使うそうだ。
(なんか、すげぇ)
「どうぞ、アダ様。お座りください」
学院長に席を勧められ、アダは席に着く。ルネティアは後ろに控えた。
「魔法石をこちらに」
アダはゴトリ、と鈍い音を立てて、魔法石を置く。
「……とても美しい魔法石だ。このようなものをどちらで!?」
「んえっ?」
「落ち着いてください、学院長。アダ様にそのようなつもりがあったわけではありません」
学院長も、研究肌の一人だったらしい。ショボン、と少しだけ肩を落として、学院長は再び説明を始める。
「変形魔法を使ったことはありますかな?」
「えっ、あ、いや……」
「左様ですか。……あぁ、問題ありませんよ。杖の取得時点では、使ったことがない者の方が多いですからな」
学院長はアダを安心させるように笑う。
「では、私の言葉を復唱し、魔法石に魔力を込めてください」
「あ、はい」
アダは魔法石を握る。
「『〈芸術の女神〉ティーエルカよ。アダ・ドティフ・ヴェヒターの名に答え、我が魔石に力を与えよ』」
「げっ、『〈芸術の女神〉ティーエルカよ。アダ・ドティフ・ヴェヒターの名に答え、我が魔石に力を与えよ』」
すると、ぐにゃりと魔法石が形を変えた。握ると、ぶにゅりと指の先から出てくる。
「なっ、何だよっ、これ!?」
「そのまま、長い棒のイメージをするのです。ロデス様、見せて差し上げてくださいませんかな?」
「……どうぞ」
ルネティアが杖を出す。アダはそれを見て、そのままイメージした。
すると、みるみる固い質感の杖に変化した。
「とても良い出来栄えです。ですが……ロデス様と同じもので良かったのですか?」
そう。ルネティアの杖をそのままイメージしたため、ルネティアと色違いでお揃いになったのだ。
「……まぁ、いいや」
「何ですか、その言い草は」
ルネティアが嫌そうな顔をして、アダは目を逸らす。
一番はもちろん〈光明の英雄〉だが、ルネティアのことも、実はかなり尊敬していたりする。
(ちょっと嬉しい……)
そう思った二人であった。
◇◆◇
「着きました」
そう言って、アレクシアからアダを降ろすルネティア。
ここは城だ。用があったらしく、杖の取得の帰りに寄っている。
アレクシアを消し、ルネティアとアダは城内に入った。
「どこ行くんだ?」
「武官団第一師団です。……訓練にでも、出ていなければいいのですが」
(……第一、師団。言ってたやつだ。十一年前の悲劇、が再発する可能性があるって。それを調べたとこじゃなかったか)
アダとルネティアは城内を歩き、やっとルネティアが足を止める。
部屋の前に立っていた男性に声をかけた。
「ルネティア・ロード・ロデスです。第一師団の師団長はいらっしゃいますか?」
「あぁ、ロデス様。はい、いらっしゃいますよ。……そちらの方が?」
「はい、次代の〈英雄〉アダ様です」
「えっと……はじめ、まして」
「おぉっ、お目に書かれて光栄です、アダ様。……では、どうぞ」
男性はにっこりと親しみやすい笑みを浮かべ、アダはぺこりと頭を下げる。
そして、アダたちは中に入った。
「おー、ルネティア! 久しぶりだねぇ」
中にいた女性が、ルネティアにぶんぶんと手を振る。
「えぇ、お久しぶりです、ミーナ」
「うんうん~。それで、そっちの子が……アダ・ドティフ・ヴェヒターちゃん?」
ミーナが首を傾げると、ルネティアは「えぇ、そうです」と相槌を打つ。
「そっかそっか~。で、ルネティアは何の用なの? ……流石に訓練しに来たわけじゃない、よね? 違うよね? ね? ね?」
陽気だった姿から一転して、ミーナは怯えるようにルネティアを見ている。
何故か、奥にいた武官たちも怖い表情でこちらを凝視していた。その方が怖い。
「違います。師団長はどちらに?」
「ほいほい。何ですかえ、ロデスさん? ……あの件ですかな」
「えぇ」
「では、その件については別室で。……ミーナ、ロデスさんとのお話が終わるまで、アダさんの相手をしてやりなさい」
物腰の柔らかい師団長とルネティアはどこかに行ってしまった。
「じゃあ、アダちゃん、ちょっとこっちにおいで」
ミーナは小さく手招きをして、アダはミーナについていく。
「やぁ、改めまして。あたしは、第一師団副師団長ミーナ・ジョルダン。よろしくね、アダちゃん」
「えっと……アダ・ドティフ・ヴェヒター……です」
「うん~、よろしくねぇ」
ほのぼのとミーナは笑った。
「何しよっかー。杖持ってたりするかな?」
「えっと、さっきとって来た、です」
「さっきかー。貴族学院に行って、そのまま城に来た感じ?」
アダが頷くと、ミーナはふんふんと頷く。
「出してみたりできるかな?」
「えっと…………ん」
ルネティアがやっていたのを思い出して、アダは杖をイメージする。
すると、手の上に杖が乗っていた。触れているのは分かるのに、重さがないのが不思議な感じである。
「おぉー、初めてにしては上出来! アダちゃんは何の属性を持ってるの?」
「火と、風です」
「へぇ、いいねぇ。習得したい魔法とかある?」
「飛行魔法!」
アダは即座に答えた。空を飛ぶというのは、魔法を初めて見たときからの夢なのだ。
「いいね、いいねぇ。風なら飛行魔法にとっても適してるし。でもね、最初から飛行魔法を操るのは難しいから、風の魔法一個教えてあげる」
「い、いいん、ですか、ミーナさん?」
「いいのいいの。最初にやる基礎魔法だからねぇ。基礎以外から魔法を始めるのは危ないから。……それに、ルネティアを驚かせよ?」
「……っはい!」
アダは大きく頷いた。「いい返事!」と言って、ミーナはアダの頭を撫でた。
「まずはね、ヴィローウィン。風魔法は、魔法の種類が少ない分、応用が利かせられるんだ。あったかい風とか冷たい風とか。強風とかそよ風とかね。もちろん、火魔法もいろいろあるよ。まぁ、私が教えられるのは風魔法だけだから。……魔法って、面白いんだよ」
「はい。頑張りますっ」
ミーナは笑う。魔法が大好きなんだろう、きっと。
アダは杖を構える。ミーナの声を、アダは復唱する。
「ヴィローウィン!」
「ゔぃ、ヴィローウィン!!」
魔力が杖に吸われると、ふわりと風が吹いた。
「せ、成功ですかっ?」
「うんっ、すごいすごーいっ!杖を取得した直後に魔法を発動までできる人は少ないんだよぉ。アダちゃん、才能あるねぇ」
(や、やった)
「何を騒いでるんです?」
そのとき、ルネティアがやって来た。
「あっ、ルネティア。お話は終わったの?」
「えぇ、まぁ。アダ様、ミーナに何かされたんですか?」
「え?」
「え~、ひっど~い。あたしへの信用なくない?」
「信用されるような行動をしてから言ってほしいですね」
「あたしはいつでも信用される行動をしていますが!」
「…………」
「そこで黙るのは違くない? 泣くよ? あたし」
アダは、笑いをこらえるのに必死だった。
そうして、第一師団を出て、アレクシアに乗って、屋敷に戻る。
「ミーナさんって、ルネティアの友達?」
「友達なんかじゃないですよ。どうしてそう思われたので?」
「ルネティアが呼び捨てしてるの、アレクシア以外にいなかったから。あと、態度」
「……そんなに顔に出ていますか? 仏頂面だと、よく言われるのですが」
「たまに表情が変わるな。ミーナさんの前では呆れって感じだったけど」
ルネティアはちょっと、嫌そうな顔をした。




