VI.すごーく大変な杖の取得 前編
「おい、見てるだけじゃなくて助けろって!」
アダは上空からアレクシアに乗って見ているルネティアに向かって叫んだ。先程から魔獣のせいで怪我だらけである。
「無理ですよ。アダ様の試練なのですから」
「話がちげーだろ!! お前が助けてくれるんじゃなかったのか!? この短剣二つで戦えって!?」
「そうです」
「うぎゃーっ!!」
アダは魔法の縄に足を取られて捕まった。
「大丈夫です。死にかけたら助けます」
「死にかける前に助けろ!!」
尤もである。だが、ルネティアに助ける気はない。アダは縄を使う魔獣に、大きな目玉でギョロリと見られる。
(きっっっも!!)
「貴族学院の子供たちでも同じ条件ですよ」
「関係ないだろっ!?」
アダは短剣を目に投げ刺した。
「……ギョロロロッッ!!!」
(鳴き方まで気持ちわりぃっ!)
アダの足の拘束は解け、着地する。
「……お前なんかの助けがなくとも俺はやってやる!!」
アダは大声で、ルネティアに宣言した。
「……楽しみにしております」
ルネティアは微笑む。
それから、アダは手順通りに杖の取得を進めた。
杖は魔法石から作られる。純度が高く、自身の魔力にあったものでなければならない。アダならば、火と風の魔法石だ。
魔法石は特別な魔木に実る。その魔木は〈光明の英雄〉のようなオパールで、太陽の光に照らされて、キラキラしている。たまに揺れると、シャラシャラと鈴のような音がした。
(あーもうっ! 全然ねぇじゃんか! クソ……!)
なお、全属性の人間がいることをアダはまだ知らない。
「赤! 青! 青! 黄色! 緑! ピンク!」
(クソ! まずほとんど二つある魔法石がねぇ)
アダが魔木を見上げて探していると、空から見ていたルネティアがゆっくりと降りてきた。
「……見つかりましたか?」
「いや。……なぁ、魔法石がどの辺にあるか分かるか?」
「……私の助けがなくてもいいと言ったのでは?」
「うぐっ」
「冗談です。本来ならば、事前に教えられていることですからね」
「おい、貴族学院の奴らと同じ条件って言ってただろ、お前」
「そういえばそうでしたね」
ルネティアはそういうところで悔しがらないので、こちらが悔しくなる。当の本人は無自覚だが。
「属性の多い魔法石は、基本的に魔木の上の方にあることが多いです」
「……ふーん、そっか。ありがと、ルネティア」
「いえ。では頑張ってください」
そう言って、ルネティアは再び空へ上がっていく。
(俺も、空を飛べるようになりたい)
そのためには絶対に杖の取得がいる。
アダは魔木に登り、魔法石を探した。赤と緑を探す。
「んー、ねぇな」
アダは次の木に飛び移る。
「よっ、と。んー、ここには…………あった!!」
まだ少し先の魔木だが、赤と緑が入り交じる魔法石が見えた。
アダは次々と魔木を飛び移り、ちょうど取ろうとした――そのとき。
「キュイッ」
非常に高いジャンプ力を持った兎の魔獣がヒョイッと攫ってしまった。変な耳の形をしている。
「おい! 待てっ!」
魔獣は足も速いらしく、アダでは到底追いつけない。どんどん離されてしまう。
アダは持っていた短剣を投げる。魔獣には当たらず、少し奥の草に突き刺さった。
魔獣は驚いて振り向く。その口には魔法石が咥えられていた。
――パクリ
「おい!! この野郎!!」
魔獣が魔法石を食べたのだ。淡く緑色の毛並みの一部が赤色に変わっていく。
「え、これ、え?」
「キュイ――ッ!」
魔獣は口を大きく開き、火の魔法を使った。アダが今持っているのは短剣二本。防げるものはない。ついでに、驚いたアダは固まってしまって、足が動かなかった。
(動け……動けよ、足ぃ!!)
人の顔よりも大きくなった火球が、アダへ飛んでいく。アダはキュッと目を閉じた。
だが、予想していた痛みはやって来ない。
「……マジェディ」
上空から声がした。ルネティアだ。
ルネティアが防御魔法を行使して、アダを守った。
「……一応、死にかける前には助けました」
「ルネ、ティア……」
「次が来ますよ」
その声で、アダは前を向いた。魔獣は小さい火球を作っていた。
大きな力が身体に合っておらず、まだ大きな力を振るえる程ではないらしい。
小さい火球が飛んでくる。大人の拳くらいの大きさだが、当たれば普通に痛いだろう。
「角を折るか、心臓を貫けば、魔獣は死にます」
「わ、分かった」
アダは一気に距離を詰める。剣を投げる以外、遠距離攻撃できないので、多少危なくても仕方がない。
「角ってこれかよ!? 小さすぎねぇか!」
兎のような魔獣は抱えられるくらいには小さい。その小ささに合わせて、角もかなり小さかった。
(心臓の位置なんて知らねぇし、角を折る方が楽かと思ってたけど、これは無理だな。心臓を刺すしかねぇ)
「おりゃあっ!」
振りかぶって、短剣を魔獣に刺そうとすると、ヒュイッと躱されてしまう。だが、少し掠ったようで、淡い緑の毛並みには赤い線が出来た。
「キュキュッ」
魔獣は攻撃されたことに焦ったようで、回れ右をして真っ直ぐ逃げていった。
「あっ、おい待て! 逃げんなっ!」
アダは魔獣を追いかける。冷静になれていないためか、魔獣は逃げていくだけでこちらを見ていない。
(これは好都合)
「いけぇえっ!」
アダは思い切ってジャンプして、魔獣に乗りかかった。小さい魔獣で、擦った足は痛いが。
魔獣の動きを封じ、アダは心臓だと思った辺りに短剣を突き刺した。
すると、魔獣はへニャーと倒れて、ボロボロと崩れ始めた。
「角、切り落としてください」
急に背後から声を掛けられる。ルネティアだ。
アダは指示に慌てて従って、二本の小さな角を切り落とした。
そして、ボロリと最後の塵が崩れ、魔法石らしきものが出てきた。
「なぁ、角って何に使うんだよ?」
「いろいろ使えますよ。……専門家でもなければ、売った方が得ですけれど」
「……!」
アダの顔が輝く。これを売れば、金が貰えるのだ。もうこれは、金を稼いだ、と言っても過言ではないだろう、多分。
「じゃあ、こっちの魔法石は、杖に使えるか?」
「……」
ルネティアは魔法石らしきものをつまみ上げ、ジィッと見つめる。
そして、首を振った。
「無理ですね。この魔獣は元々他の魔石も食っていたんでしょう。他の邪魔な魔力も入っていますから。もうこれは魔法石とは言えないでしょうし、杖の材料にはなりません」
「あー!クソッ!」
アダはガシガシと頭を搔く。
「行ってくる!」
そう言って木に登り、魔法石を探しに行った。
その頃「ふんふ〜ん」とノリノリでお茶を飲んでいるアンジェリーネがいたりします。




