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絶望少年は君の為に世界を救う  作者: 古橋すすむ


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第15話 前に出る勇気

「凪君がリーダーをやるなんてほんとにびっくりしたよ」

 

 唯瀬さんが笑みを浮かべながら言う。


「断れなかっただけだよ。みんなに嵌められたんじゃないかな」


 苦笑いで返すと、彼女は少し首を傾げた。


「うーん……でも、凪君ならしっかりやってくれそうって、みんな思ったんだと思う」


「勉強は真面目にやってるし、そう見えたのかもしれない。でも、リーダーの適性はないんだよ」


「私も頑張ってフォローするからさ。がんばろ!」


 その言葉は温かかった。けれど、背負う荷はやはり重すぎる。


 翌朝。目覚めは最悪だった。


「……はぁ、死にたい」


 口に出してしまった瞬間、自分で驚いた。最近はそんなことを思う余裕すらなかったのに。沙理を助ける――その目標に縋ることで、暗い言葉を遠ざけていたのだ。


 ならば、文化祭のリーダーという役割に全力で取り組んでみるのもいい。気だるい頭を抱えながら、そう思い直して一日を始めた。


「今日は文化祭の出し物を決めます。案がある人は手を挙げて下さい」


 教室の前に立つと、視線が一斉に集まる。それだけで心臓がどきどきしているのが分かるほど緊張していた。唯瀬さんが隣にいることが心強い。以前言われたことを思い出して、この緊張と不安を振り払う。

 しかし、沈黙が続く。このクラスは冷めている気がする。この静かな間をどうしたらいいんだ。考えてくるように言われていただろうに。


「……何か食べ物を売る店とかは?」


 ようやく男子の一人が声を上げた。無難な意見だ。だが、その一声にどれほどの勇気が要ったか。そしてどれほど周りを安堵させたか。本人も気づいていまい。俺は心の中で拍手を送った。


 唯瀬さんが発言内容をそのまま黒板に書き込む。

 他に意見がなければどんな店にするかといった話し合いになるところだが、何かを言いたそうに目線をくれたり、俯いたりしている女子が目に入る。


「雪村さん、意見ありますか?」


 驚いた表情で立ち上がり、小さい声で発言する。


「……演劇をやりたいです」


 反対の声がすぐに上がる。確かに大変そうだ。反対する人がいることには納得する。

 唯瀬さんは「何か食べ物を売る店」の隣に「演劇」と書き込んだ。


「雪村さん演劇部じゃなかった? 部活でやらないの?」


 クラスメイトの質問に、雪村さんは自信無さげに答えた。


「部活は3年生が多くて、受験があるからということで、部活ではやらないんです。でも文化祭で演劇をやりたくて……」


 この演劇部の演劇は文化祭の中でも注目される出し物だ。今年はそれが無いとなると寂しい。

 

「先生、既に演劇をやることが決まっているクラスはありますか?」


「今のところ無いな。3年生は出し物が決まっているけど、全組飲食模擬店だ」


 3年生は受験があるのでその配慮だろう。

 

「そればかりじゃつまらないから、俺は演劇に一票入れるよ」


 本心からだけど、勇気を出して発言したのに反対された雪村さんを援護したい。そう思って勇気を振り絞って口にすると、唯瀬さんも続いた。


「私も興味があるから、演劇に一票」

 

 そう言うと、黒板の「演劇」の下に正の字で2を書き込んだ。


「それでは多数決で決めます」


 多数決では模擬店は男子の挙手が多く、顔を見合わせて苦笑していた。演劇は女子の挙手が多く、一部で小さな拍手が上がった。結果は同点だったが、最後に先生が笑いながら言った。


「珍しく凪山がやる気だから、演劇に一票だ」


 こうして最後の一票により、出し物は演劇に決まった。先生の最後の言葉で俺の責任がより重くなってしまったのが辛い。

「まじかよー」という男子の声に心が痛んだ。素質のある人がリーダーをやっていたら、もっとうまくクラスをまとめられていたかもしれないのに。 

 

 放課後。

 雪村さんと打ち合わせをした。メンバーは俺と唯瀬さん、他に特にやる事の無いアイとミラもいる。


「演劇ってどんな準備が必要かな?」


「ざっくりだけど、脚本作成、配役決め、セリフ練習、舞台設計製作、衣装作製、通しで練習の流れで、配役には役者、演出、音響、照明、舞台美術、衣装、メイクがあります」


 さっきとは打って変わって雪村さんは饒舌で、その熱意に圧倒された。そしてやることの多さに、不安も大きくなった。


「脚本と演出は私にやらせてください。演劇部ですから」


 胸に手を当て、自信ありますとアピールしているその姿は、まるで舞台の上の役者のようだった。


「まずは演目ですが、オリジナルか既存作品かどちらにしましょう? 難易度がかなり変わります。オリジナルの方がやりたいですが、あらすじから考えると時間がかかるかもです」


 俺はアンドロイドと暮らすという物語の中にいるような生活を送っている。これをあらすじに使えないだろうか。ふと思いついた物語を語った。


 ――近未来、アンドロイドと人類は戦争状態。

 勇敢な青年はアンドロイドと戦い、彼女のプログラムを書き換えた。彼女は元凶となるコア破壊の為に過去に送られ、主人公と出会い一緒の学校に通った。

 彼女は段々彼のことが好きになり、コアを破壊するか悩む。彼は彼女にコアを破壊しないように頼むが、彼の為に破壊を決意。

 コアに近づくと、未来から送られた敵アンドロイドの攻撃を受けるが、彼に庇われる。彼は怪我を負い、彼女が手当する。その後、彼への思いを伝えながら、彼女はコアを破壊して消えてゆく。


 雪村さんはメモを取りながら答えた。


「いいですよ! 観たことある映画みたいですけど、そういうのを取り込むのは分かり易くて全然アリです。学園生活の話は衣装や小物がそのまま使えるのもいいですね。いろいろ変えちゃいますが、これで脚本始めていいですか? 時間もないですし」


「そんな簡単に決めちゃっていいの? 雪村さんがよければ反対する人はいないと思うから、お願いするよ」


 すんなり採用されて動揺したが、あの雪村さんが評価してくれているので、お願いすることにした。


「凪君は想像力があるねー」


 感心されているが、半分は実体験だ。どのくらいでできるか確認すると、3週間以内でやり切ると、挑戦を楽しんでいる様子で答えてくれた。


「夏休み前には配役決めができそうだな。手伝いが必要な時は声かけてね」


「うん。凪山君ありがとう。演劇を推してくれて。頑張るね」


 嬉しそうな顔で雪村さんは去っていった。唯瀬さんは部活へ行き、教室に残ったのは俺とアイ、ミラ。

 

「アンドロイドが使う武器、アイ達の使えないかな。小物を作る時間を短縮できるし」


 軽い冗談のつもりだったが、二人は真剣に応じる。

 

「ミラの銃使ってみる? 出力は調整できるよ」

「アイのサーベルも出力を1%に抑えれば問題無いと思うわ」


「出力1%の威力はどのくらい?」


「静電気でパチッとなるくらいだよ」


 そう聞いて銃を受け取る。このダイヤルが出力調整か。ふむふむ。


「撃ってみていい? 安全を確認しないと」


「いいよ」との返事で、適当にミラの体に向けて銃を撃ってみた。


「キャッ」と小さい悲鳴が聞こえ、「どこ撃ってんのよ」と胸を抑えて痛がっている。


「ごめん。何も考えてなくて」


「自分の体で試せばいいでしょ!」


 アイはそういうとサーベルで俺を切り付けた。確かに冬によく経験する静電気みたいだ。地味に痛い。出力を下げても見た目はちゃんと撃っているように見えるし、剣に見えた。


「使えそうだな」


「さすがにこれを一般人に持たせるつもりは無いわよ」

「危険すぎるよ!」


「それもそうだよな。じゃあアンドロイド役になった時に使ってくれ」


 滑り出しは上々といったところだ。脚本ができれば、決めること、やることが一気に増える。問題は俺にリーダー役が務まるかと、クラスの士気を上げられるかだろう。

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