翡翠の芸術を理解する為には
とある橘家三兄弟の日常
三兄弟の美的センス、翡翠の芸術について編
翡翠がリビングの壁に貼り付けたのは、最新作のグラフィティアート。
「どうよ、俺の“魂の一筆”。タイトルは――“怒れるパンケーキ”。」
堂々とした翡翠の宣言に、蛍は目を細めながらアゴに手を当てて唸った。
「……なるほどね、うん。黄色と茶色の混ざり方は、確かに……怒ってる……のかも?」
「みどり兄、それただの焦げたホットケーキにしか見えないよ……」
琥珀は正直すぎる感想を小声で漏らしたが、翡翠にはしっかり聞こえていた。
「ちげーし!これは怒りに燃える朝の象徴なんだよ!芸術は爆発って言うだろ!」
「それ、ちょっと違う人の名言じゃない……?」
蛍が苦笑いしながらも、絵の具が垂れた床をそっと拭き始めた。どうやらまた、壁だけじゃなく床にもアートが広がってしまったらしい。
「でもね、ぼくは好きだよ。みどりの色の使い方は独特だし、勢いもあるし。……ただ、ちょっとだけ抑えてくれたら、もっと床が助かるなぁって」
「だーから、芸術ってのは、枠にとらわれたら終わりなんだって!」
「ボクは枠に入れて描いてほしいな……おうちのために……」
琥珀が涙目で呟くのを見て、翡翠は頭をかいて笑った。
「……しゃーねぇな。次はキャンバスに描く。で、それを壁に貼れば文句ねぇだろ?」
「それならOK〜」
「ありがと、みどり兄」
兄弟にほほえましく見守られながら、翡翠は自信満々に言い放った。
「次の作品は“逆光の目玉焼き”な」
「……どんな世界観……」
琥珀と蛍のツッコミが、今日も橘家に響くのだった。