出来すぎた弟
琥珀のおかげで、少しだけ気まずい空気が和らいだ。
笑顔を作ることもできた。心から感謝した。
――けれど、根本的な解決には、まだ遠い。
食後、皿を片づけながら声をかける。
「ホタル、お風呂出来てるから入ってきていいよ。お皿はオレが洗っとく」
「……わかった」
蛍は短く答えて、浴室へと向かっていった。
本当はもっと言いたいことがあった。謝りたいことも、伝えたいことも。
でも喉の奥で言葉が詰まって、何も出てこなかった。
そんなオレのそばに、琥珀がすっと立っていた。
「翠兄、すぐに解決できる問題じゃないから……あまり落ち込まないで」
小さな声で、それでも真剣な眼差しで言葉を続ける。
「蛍兄の性格上、ずっと怒り続けることなんて出来ないと思う。その間に、翠兄もちゃんと考えて」
……胸が熱くなる。
小六のくせに、どこまで大人なんだよ。
琥珀はそのまま蛍の後を追いかけていった。
「蛍兄、一緒にお風呂入ろう!」
そう言って、蛍に抱きつく姿が見える。
蛍も「しょうがないな」と言いたげに小さく笑っていた。
オレは皿を洗いながら、静かに息をついた。
(……琥珀。お前は本当に、できた弟だよ)
胸の奥でそう呟きながら、泡の浮かぶ皿をひとつひとつ丁寧に洗い続けた。