表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Health Control  作者: ZIRO
7/20

第6話【先生】

卒業式から、1週間経った。


さっそくお宮の公園を目指して走ったけど、前回と同じぐらいの所で膝が痛くなってきた。


治ってねぇじゃねぇか!!


あのヤブ医者め!!


でもせっかく1週間も我慢したんだし、さすがにここまで来たんだから引き返したくない。


走るのは諦めて、歩いてお宮の公園に行った。


コンビニに着く頃には、膝はだいぶ痛くなってたけど、どこかであの男性ヒトが見てるかもと思うと、びっこ引いて歩いているのを見られたくなくて、必死に痛くないフリして歩いた。


コンビニに入って、あの男性ヒトを探す。


目印は白いジャージ。


見当たらないし、膝も痛いし、とりあえず立ち読みしてるフリして、あの男性ヒトが現れるのを待った。


2、30分待ってもあの男性ヒトは現れず、さすがに店員が不審な目で見てる気がしたから、外に出て公園の周りを歩くことにした。


いつも公園の周りを走ってるって言ってたから、もしかしたらこの方が見つかるかも。


コンビニから公園までも、意外と距離はある。コンビニで時間を潰したからか、膝はそんなに痛くなくなったので、しばらく公園の周りを歩き続けた。


空気はまだ冷たい感じだけど、所々に春っぽさがあるから、なんか気持ちが軽くなるね。


地元で有名な桜並木も、見上げると小さなつぼみがいくつも出来てるし。つぼみの、ほんのりと紅い感じがいくつも重なり、桜並木全体が紅みがかって綺麗だ。


桜のつぼみに見とれていたら、後ろから足音が近づいて来た。


緩やかなカーブの向こうから走ってくる足音に、あたしはなぜだかドキドキした。


……あの男性ヒトかな…


ゆっくりとカーブの向こうから姿を現したのは…


「…なんだ」


50歳ぐらいのおっさんだった。


あの男性ヒトじゃなくてガッカリしたけど、そのおっさんの無駄肉の無さとふくらはぎの逞しさにしばし見とれ、反対のカーブに消えていくまでじっと見ていた。


おっさんがカーブに消えていく



入れ違うようにおっさんよりひと回りボリューミーな、逞しい白いジャージ姿の男性がこっちに向かって走ってくる。



あの男性ヒトだ!!会えた!!



あたしの視線は自然に彼を追い、彼もまたあたしに気付くと白い歯をキラリと輝かせ……


「おう、ももちゃん!」


あたしに手を振った


「………!!」


やっべ、なんか言わなきゃ!!


名前呼ばれたから、こっちも名前………あら!?


名前知らねぇ!!


でもなんか言わなきゃ…!!


ここまでの思考たぶん0.5秒ぐらい。


あたしは、手を振り返すので精一杯だった。


「膝はもういいの?」


彼は、あたしの前で立ち止まり、汗を拭いながら爽やかな笑顔で言う。


「あ、はい、ちょっとまだ痛いけど」


「え!そうなの?どうやってここまで来たの?自転車?」


彼の顔が、またあの時と同じように、すごく心配してくれている表情になる。


その真剣な眼差しに、ドキドキが加速しているのがわかる。


ヤバイよヤバイよ…!!心臓止まれ!!なんでこんなドキドキすんだ!!


「あ…いや…ある…歩って」


ほらぁ!!意味なくどもってまうやないかぁ!!


あたしこんなキャラちゃうでー!!


心の中では吉本バリの突っ込みが、マッハ3ぐらいでガンガンきてるのに、外側のあたしはまるで少女漫画みたいにドギマギしてる。


デブにゃ似合わねーって!!


新喜劇なら、スッチーの飛び蹴りかなんかで豪快に突っ込まれてるとこやねん。


「歩きかぁ。歩きならまだいっかなぁ。……んー」


彼は、あたしの膝を見ながらなんか考えこんでる。


「ももちゃん、ストレッチとかしないでしょ?」


「うん、苦手」


お、突然意外な質問してくれたから、なんかサラッとアンサーできたぞ。


「この先をもうちょっと歩くと、芝生広場に行ける入口あるから、そっから芝生広場に行ってなよ。芝生広場わかるよね?」


「たぶん」


「俺は、反対から走って来るから、そこでまた合流しよう。ストレッチとか教えてあげるよ」


「えっ!?」


マジで!?なんだその展開!?


なんかわからんが、めっちゃ嬉しいぞww


「じゃ、また後で」


白い歯をキラリとさせて、彼は爽やかに走り去って行った。


「あはっ」


うぉおおおぉぉおお!!!!


なんだこの展開!!!!


予想外過ぎてテンションのコントロールが利かんwwwwww


上がったテンションのまま、あたしは走った。


速くなんか走れないけど、膝の痛いのなんかすっかり忘れて、約束の芝生広場まで、途中何回か息切れして歩いたけど、あたしは走った。


芝生広場の手前に、噴水がある。


けっこう大きな噴水だけど、今は水が出てないから、ただの池だ。


噴水はちょっと高くなった所にあるから、そこから芝生広場が見える。


あの男性ヒトは、まだ来てないみたい。


「お、早かったな」


「あっ、はい」


唐突に背後から声をかけられ振り返ると、浅黒い顔から覗く白い歯をキラリとさせた、白いジャージのあの男性ヒトが、爽やかに汗をきらめかせていた。


「ちょっと走ったから」


「そうか」


彼は、少し息切れしている。


その息づかい1つ1つに、なぜかあたしのドキドキは加速する。


彼に促されるように、芝生広場に足を踏み入れ、直接そこに腰を下ろした。


「走り過ぎてなった膝の痛みはさ、膝の横のスジが痛んでることが多いんだ。だから、内腿の筋肉を伸ばすように……」


まるで、先生みたいに丁寧に教えてくれる彼の言うように、身体を動かしストレッチをする。


「ももちゃん、固いなぁ(笑)」


あたしは、めいいっぱい広げても90度くらいしか開かないし、固いってより腹の肉が邪魔してちっとも曲がらない。


対して彼は、足は180度近く開き、身体全部が足に着くんじゃないかってぐらいグイグイ曲げてる。


やべぇ、あたし超かっこわりぃ(汗)


「身体固い人は、ゆっくり伸ばすといいよ。息を大きく吸って、吐きながら伸ばすんだ」


「はい、先生…あ」


「ははっ、先生か」


先生、笑顔が眩しいよ。


彼があまりに先生っぽいから、つい「先生」って口に出ちゃったけど、彼は悪い気どころか笑ってくれたから、あたしも嬉しかった。


「いいよ、先生で」


そう、いつもの爽やかな笑顔で言ってくれたから、私の中で彼は「先生」になった。




先生が教えてくれるストレッチは、あたしにはかなりキツかった。


けど、あたしが無理そうにする度に、先生はあたしのレベルに合ったやり方を教えてくれる。


そんな風に優しくされたことなんて、生まれて初めてだったから、まるで夢を見ているみたいだった。


夢なら覚めないでほしい。


「さ、じゃあちょっと立ってみようか」


言われるまま立ち上がる。


ちょっとフラッとした。


「大丈夫?」


「…はい」


なんていちいち優しい人なんだろ。天使ですかあなたは?


「じゃあ、ちょっとジャンプしてごらん」


言われるようにジャンプする。


「いいね。じゃあ、軽く走ってみようか」


言いながら先生は、着いてこいと言わんばかりに、芝生の丘へ駆け出した。


先生に着いていくと、先生は丘を登りきった所で振り返って止まる。


「膝どう?」


言われて初めて、さっきからずっと忘れてた膝の痛みを思い出す。


けど……


「あれ?」


その場で足踏みしても


「あれ?」


ちょっと駆けてみても


「…痛くない」


「OK、大丈夫みたいだね」


「先生すごい!!痛くない!!なんで!?」


「ももちゃんが頑張ってストレッチしたからだよ」


眩しいよ先生。


その爽やかスマイルが素敵すぎます。


「じゃあ、今のストレッチを、毎回走る前と後にするんだよ」


「はい」


「それから、いきなり1時間半はハード過ぎる。帰り道も考えたら3時間だ。まずは自宅近くの道から始めて、慣れたら叙々に距離を伸ばして行くといいよ」


「はい」


もう、私には先生が神様にしか見えなかった。


医者でも治せなかった膝を、ストレッチだけで治しちゃうなんて…


あたしの救世主は、芝生の丘に立つ、白いジャージの色黒神様。


その神様が、最後に私を夢から現実世界に引き戻す。


「じゃ、俺はもう1っ走りしてくるから。ももちゃんも頑張ってね!」


白い歯をキラリと煌めかせ、神様は走って行ってしまった。


あれ?終わり?


びっくりするぐらいのペースで走り去って行く神様の背中を、あたしはぼーっと眺めていた。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ