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Health Control  作者: ZIRO
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第2話【ダイエット】

“まぁくん”には、好きな子がいたらしい。


女子同士の会話で、「いいよねぇ、○○ちゃんは痩せててさぁ」とかって必ず言われるような子。


あたしだったらすぐ諦めちゃうけど、お姉ちゃんはひとしきり根に持つタイプ。好きな人の、好きな人がガリガリなら、お姉ちゃんが対抗心を燃やすのも解る。


ま、頑張って。


どーせすぐに諦めるんだろうけど。


て、思ってたら


「百華、ジャージに着替えな」


「………は?」


着替え…“な”?


「今から走りに行く!!」


え……ちょ……ま……


いや、咲「な」ってなに「な」って?


おもむろに服を脱いで、チャーシューみたいな下着姿を晒したお姉ちゃんは、自分のジャージを引っ張り出すとあたしのタンスをあさりだした。


「おい、何やってんだ…おぶッ!?」


無言であたしのジャージを引っ張り出すと、あたしに向かって投げやがった。


「私、絶対痩せるから、百華も付き合いな」


「はあ!?なんであたしがお姉ちゃんのダイエットに付き合わなきゃいけないんだよ!?嫌だよあたしは」


「あんただってね、来年から女子高生でしょ!?女子高って言ったって合コンとかあるし」


「いや、興味ねぇし」


「興味あるとかないとかじゃねぇんだよ!!」


ダサい学校指定のえんじ色のジャージ姿で、息巻くお姉ちゃん。


「あたしは別にダイエットなんていいから、一人で勝手に行ってこい!!」


「夜一人で走るなんて危ないでしょ!!」


いや、だったら妹に頼るなよ……


面倒臭いから無視。ちょうどいいタイミングでまたメッセージが来たから、猪みたいに鼻息鳴らしながら喚き続けるお姉ちゃんを無視して、あたしはそのメッセージを開く。


『momokaちゃんは、芸能人で言ったらどんなタイプ?』


ちょっと……テンション下がるな、こういう質問は。大抵の男は、綺麗な女優さんやアイドルなんかの名前を求めてるんでしょ、どーせ。


クラスの男子たちの会話でよく知ってる。


デブを気にしないとは言いつつも、やっぱりこのツラをSNSで世界へ発信する勇気もなく、私のアイコンは今食べてるポテチのジャガイモみたいなキャラにしてある。


『デラックスなマツコさんに似てるってよく言われるよw』


嘘ついて、橋本○奈とか答えようかと思ったけどやめた。


いくら顔の解らないネットの世界でも、なんか嘘がつけなかった。


『そっか』


おや?


『そっか』だけ?


自分からいろいろ聞いてきといて『そっか』の一言だけ?


なんだよ、せっかくネタ振ってやったのに、リアクション薄いな。


「百華!!早くしてよ!!遅くなっちゃうだろ!!」


猪がまだ喚いてる。


『お姉ちゃんも似てるから、マツコシスターズって言われるよwww』


自虐ネタは嫌いじゃない。あたしは明るいデブを目指して生きて来たのだ。


とはいっても……


さっきまではすぐに返信来たのに、今度はなかなか返事がこないってのは、まぁそういうこと…


「もう、百華!!」


うわっ!!猪が登ってきた!!


「何やってんの!!早く行くよ!!」


「行かない」


「はあ!?あんただってデブなんだから、ダイエットしなきゃいけないだろ」


「あたしはデブのままでいいもん」


「そうやって後悔すんだよ!!私みたいに悔しい思いする前にあんたも痩せるの!!」


「嫌だ、めんどくさい」


メッセージがなかなか来ないから、あたしは画像投稿アプリを閉じようとして、違和感に気づいた。


あれ?さっきの人がフォローしてくれたはずなのに、あたしのフォロワーが0に戻ってる。


どうなってんだ?


「百華、いいかげんにしろよお前」


お姉ちゃん、勝手にベッドに上がり込んで来やがった!!


「ちょ……ダイエットなんかしないってば!!」


「うるさい!!一緒に行くんだ!!」


「ちょっ…まっ…!!」


結局、無理矢理ジャージに着替えさせられ、外に連れ出されたんだけど……


「超寒ぃ!!無理!!帰る!!」


「は、走れば、あった…かく…なるって!!」


そういうお姉ちゃんだって声震えてるじゃねぇか!!


2人でガタガタ震えながらも、とりあえず町内を走り出した。


「うー…寒いー死むー」


「うるさいなぁ、黙って走れ」


「てか、どこまで行くの?」


「とりあえず、お宮の公園まで」


「はあ!!?無理に決まってんだろ!!あたし帰る!!」


お宮の公園は、あたしたちの隣の中学の校区にある。もちろん遠い。


「バカ!!まだ走り出したばっかだろ、帰んなよ!!」


「何時間かかると思ってんだ!!」


「何時間もかからんわ。1時間ぐらいで走れるわ!!」


「1時間も走れるわけないだろ!!あたし帰る!!」


と、踵を返すあたし。町内をちょっと走るぐらいならと思ったけど、お宮の公園までは無理、絶対無理。


しかし、振り返っても後悔はあった。お姉ちゃんと二人で走って来たから何とも思わなかったけど……


夜道超怖ぇええええええ!!!


「やっぱあたしも走る」


結局こうなるんかよ。



──10分後──



「お姉ちゃん、早く」


「ちょ……ま……しんどい……水……」


おいおいまだ家を出て10分ぐらいしか経ってないぞ。


あたしもちょっと息あがってきたけど、お姉ちゃん吐きそうなぐらいゼェハァいってる。


「もも……帰ろ…」


なんかなぁ……お姉ちゃんのこういう所嫌い。


自分で言い出しといて、ちょっと無理だと思うとすぐ諦める性格。


だったら言うなよって思う。


ま、今回はあたしも同意だからいいけどさ。


「いいよ。どうせそんなもんだと思ったし」


あたしは来た道を歩き出した。お姉ちゃんはしばらく電柱にもたれたまま、ゼェハァやってたけど、ちょっとしてから着いて来た。




翌日


夕飯の後、何やら電子レンジで温めて、二階にそれを持って上がって行く姉の背中を見て、ふと思い階段の下から姉を見上げた。


「お姉ちゃーん、今日は行かないの?」


「どこに?」


………おい


「いや、なんでもない」


あたしはそのまま食卓に戻り、お母さんが煎れてくれたあったかいお茶を飲んだ。


ま、そんなもんだよな、咲は。


昨日、帰ってきてから「明日からやろう」と言ってそのままベッドに潜り込んだ咲。


解ってはいたけど、一応「やる」って言ってたから声かけたけど……お姉ちゃんの性格からして、あのまま終わりだなってのはよく解ってたから、もういいや。


性格はねちっこいクセに、ちょっと嫌だとすぐ諦める。そんなお姉ちゃんにちょっとイラッとするけど、怒る程じゃない。



ただ……



振られてあんなに悔しくて泣いてたことも、もういいのかと思うと、ちょっと複雑だった。


お姉ちゃんにとっては、“まぁくん”てのはそんな程度の…ちょっと優しくしてくれて嬉しかったって程度の、男だったってことなんかな。


ま、あたしがとやかく言うことじゃねぇわな。


気を取り直して、あたしはまた画像アプリを開いた。


結局、あれから昨日の人からは何もなかった。理由はだいたい解る。あたしがデラックスなあの御方に似てるって言ったから。


同じように、あたしがイイネした相手から何人かメッセージが来てたけど、本当にお礼だけの人がほとんどで、そのままメッセージのやりとりを続けた人が1人だけいた。


社会人ぽいからまだ仕事中かな…と思っていたら


「お、メッセ来た」


『momokaちゃんこんばんわ。実わもうmomokaちゃんとメールするの終わりにしようと思います』


は?なんだいきなり?


もう終わりにって、昨日知り合ったばっかじゃん。


あたし、なんかしたか?


『え?どうしたの急に?あたし、なんか悪いこと言ったかな?』


送信と同時に返信が届く。


どうやら入れ違いで送ったみたいだ。


『実わ昨日のバレンタインで告られまして…というか以前告って振られた子から逆に付き合って欲しいと言われまして』


メッセージは三通目に続いた


『ただ、条件があって、自分以外の女の子と一切連絡を取るなと言われました。このアプリのこともいろいろ言われて面倒なので、これで退会します。短い間でしたが、ありがとうございますた』


ますたってなんだよwwwww


いやいや、ないでしょ。自分以外の女と連絡取るな?


何様だそいつは。付き合うのに条件なんかいるんかよ。


恋愛圏外のあたしには、さっぱりわからないことだらけだwww


『わかったよ。その子可愛いの?』


なんか悔しくて、ついそんなメッセージを送ったら


『有○架純に似てるかな』


……めっさ可愛いじゃねぇか


デラックスなあたしとは大違いだよ


別に振られたわけじゃないのに、なんか腹立ってきた。


相手の子が可愛いからじゃない。そんなワガママで友達奪われる理不尽さに、無性に腹が立ってきた。


腹が立ってきたら、なぜだかさっきのお姉ちゃんを思い出し、あたしは勢いよく立ち上がると、二階への階段をドスドス登った。


「お姉ちゃん!!」


「……ん?」


「なにモチ食ってんだ… 」


さっき暖めてたのはソレか


「いや、モチ食ってる場合じゃねぇだろ。昨日お姉ちゃん、また今日走るって言ったじゃん」


「言ったか?」


こんの猪がぁ…!!!


「言ったわ!!」


あたしはイラついた衝動のまま、お姉ちゃんのベッド脇に脱ぎ散らかされたジャージを拾い、お姉ちゃんに突き出した。


「ほら、着替えなよ。行くよ」


「はぁ?行きたきゃ一人で行けよ」


「お前が昨日行くっつったろ!!」


「私は行かない!!行きませんからね!!」


こう言い出したらコイツが動かないのは解ってる。解ってるから腹が立つ。


でもなんか、腹が立つこの姉を見ていたくなくなってきた。


「あっそ。じゃああたし一人で行ってくる」


お姉ちゃんのジャージを床に投げ捨てると、あたしは自分のジャージに着替えてさっさと部屋を出た。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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