第22話【姫ちゃんの悩み】
『ごめん姫ちゃん!!
まだ少しかかるから、先に帰ってて』
姫ちゃんと一緒に帰る約束を、すっかり忘れて地元まで帰って来ちゃって、慌てて学校方面の電車に乗ってすぐ、姫ちゃんから着信がかかってきた。
咄嗟に言い訳も思い付かないし、何より電車の中だから電話に出られないから、コールが途絶えてからアプリでメッセージを送った。
ピロンッ
返信早っ!!
『全然いいよー
駅前のコンビニで待ってるね』
うええ、マジか!?
それは本当に申し訳ない
先に帰ってていいのに。ていうか先に帰っちゃったのはあたしの方なのに…
本っ当に申し訳ない(汗)
シンプルな絵文字付きなところが、なんとも姫ちゃんらしい感じの返信に、ひたすら罪悪感だけが押し寄せる。
電車を降りて改札を出ると、コンビニはすぐそこにある。
けど、改札から真っ直ぐコンビニに向かうと、電車を降りて来たのがバレるから……つまり、一回帰ったのがバレるから、反対の出口から出て、ダッシュでいつもの出口に向かう。
クソォ、駅の反対に行くだけなのに、なんであんなに遠くの地下道通らなきゃいけないんだ。
「姫ちゃん、ハァハァ、ご、ハァ、めん、ハァ、ングッ、ごめん、ね!!」
遠回りダッシュの勢いのまま、コンビニに駆け込んだら、姫ちゃんはコスメを眺めてた。
息切れして「ゴメン」すらまともに言えねぇ。
「いいよー、全然。マツコも用事あったのに無理に付き合わせてごめんね」
姫ちゃんは、いつもの笑顔でそう言ってくれた。
姫ちゃん、マジで女神だよ。
それか、遠回りダッシュしたのが急いでる感出て、すっかり忘れて帰った感が無くなった?
でも、それでも、かなり待たせたのに嫌な顔ひとつしない姫ちゃんは、やっぱりめちゃくちゃいい子だ。
それなのに、あたしときたら最悪な嘘つきデブだよ。
「マツコのお陰でチア部の子たちと時間ずらせてよかったよ」
「いやいや、ほんとゴメン」
あたしに悪い気させないように、気を使ってそんな思ってもいないようなことまで言ってくれる。
美貌だけじゃなくコミュ力も高い姫ちゃんは、言い方がすごく自然な感じなので、ついそうなんだって信じちゃう。
ただまぁ、最近陸上部でボッチ体験をしたばかりのあたしには、その自然に聞こえる感じが少し気になった。
「姫ちゃん、チア部の子たちと仲悪いの?」
「え?なんで?」
「いや、時間ズレてよかったとか…」
優しいウソっていうのはわかってるけど…
「あっはっはっはっ!!マツコどうしたの?なんか思考がネガティヴだよ」
「ああ、いや、ちょっと気になっただけだよ」
「ごめんごめん、心配してくれたんだね。大丈夫だよ、仲は悪くないよ」
「そっか、よかった」
やっぱり、マツコに気を使わせないための、優しいウソ…
「まぁ仲は悪くないけど、そこまで良くもないよね」
ん?
意味深な笑顔で言う姫ちゃん。
いつもの自然な感じの笑顔と、ちょっと違う。
2人で帰りの電車に乗り、地元の駅からのんびり歩いて帰る間に、姫ちゃんはポツポツと語ってくれた。
表向きは、今のチア部に入りたくて、熊女に入ったらしいんだけど、実は誰も知ってる人がいない学校に、行きたかったんだって。
小学生の時、転校して新しい学校に通うようになってから友達が増えた姫ちゃん。
女の子はみんな、向こうから声をかけて来て友達になることが多かったそうな。
小学四年生ぐらいのとき、ある友達に『姫ちゃんが可愛いから友達になった』って言われてから、自分がみんなより可愛い方だって意識し始めた。
そのぐらいから、意地悪してくる男の子と
告白してくる男の子と
嫌がらせしてくる女の子が増えた。
意地悪してくる男の子とは仲良くなれた。
意地悪っていっても、見方によってはただのコミュニケーションで、ふざけ合う感じで仲良くなれたらしい。
その辺は私も共感できた。
私の場合は、一歩間違えばただのイジメだったけど。
けど、明るいデブでいることでそれはただのふざけ合いになった。
姫ちゃんは、男の子はそうやってふざけ合っていれば楽しくやれたからよかったけど、告白されると、姫ちゃんは気にしなくても相手が気にするらしくて、ぎこちなくなるのが嫌だったって。
中学の時は同じ人も含めれば毎週1回は告られてたそうで
いや、マジすげぇと思ったよ
たくさん告られたりするんだろうなぁって思ってはいたけど、まさかそれほどとは…
で、鬱陶しいから告ってくるだけの男にはお父さんのメッセージアプリのID教えてたって。
「マジか!!」
「お父さんから、変なポエムが来たとか聞いたことあるけど、あれは爆笑だったわwww」
相手の少年も可哀想にwww
「男子はまぁそうやって適当に相手できるからよかったけど、問題は女子なんだよね」
「ふむ」
可愛い故の嫉妬
好きな男子が姫ちゃんのこと好きってだけの逆恨み
執拗に仲良くしてくる“群れたがり女子”たちは、学年一可愛い姫ちゃんと友達でいることがステータスだった。
とにかく女子はめんどくさい!!
女子が嫌いすぎて、自分が女子であることも嫌になった時期があったとか。
「じゃあなんで女子高にしたの?」
当然の疑問である。
姫ちゃん曰く、そうやって群れたがる女子は、『普通ランク』の子が多かったそうな。
ある程度可愛い子たちにもそういう子はいたけど、そのランクの子たちは姫ちゃんみたいに男子の方が楽って感じるタイプか
嫉妬や逆恨みで嫌がらせしてくるタイプかに別れたらしい。
んで、姫ちゃんの人生を変えた出来事が中2の夏に訪れる。
従姉妹のお姉ちゃんが高校でチア部に入ってて、大会があるから見に来てと言われ、初めて見たチアリーディング。
そのときは、ただ演目の凄さに圧倒されて終わったらしいけど、中3で進路を決めるとき、さっきの『群れたがり女子』と『嫌がらせ女子』のいない学校に行きたいって思って
本気で男子高に行きたいって考えたんだとwww
サラシで胸潰せばいけるんじゃね?とか考えたけど、その時初めて自分の胸が大きめだと気付いて、男子高は断念。
「いや、根本的に無理だしwww」
「まぁねwww」
で、ふと中2の夏に見たチアリーディングを思い出し、なぜかそこから、嫉妬の原因になる男子がいなけりゃ、嫌がらせ女子はいないはず!!
という思考に繋がるよくわからん姫ちゃん。
んで、チア部に入れば可愛い子が多いから、姫ちゃんにあやかりたい群れたがり女子もいないんじゃないかって、思ったらしい
「でも現実は違うんだよねー」
漫画なら、手書き文字で『ああああああ』って書いてありそうな感じで、力なく上を見上げる姫ちゃん。
「けっこういるんだ、群れたがり女子も逆恨み女子も」
「え、もう逆恨みされてんの?てか男子いないのに…」
「チア部ってさ、まず選抜メンバーと補欠とその他にわかれるじゃん」
「うん」
「で、選抜メンバーの中でもセンターの方とか端っこの方とかあるんよ」
「ああ、アイドルグループといっしょだね」
「そうそう、でさ、センターにくる子たちは勿論上手い人が来るんだけどさ、今の3年のセンターの人がめちゃくちゃ可愛いんだよ」
「へえ!!」
姫ちゃんがめちゃくちゃ可愛いって言うなんて、どんな人だろ。
「その人は、顔だけじゃなくてダンスもめちゃ上手いからセンターなんだと思うんだけどさ、顔で選ばれるって勘違いしてる人もいてさ」
「ああ、めんどくさいね」
「そ、めんどくさいのよ。そういう面倒くさいのかわしながらさぁ、群れたがり女子とも上手にお付き合いしながらさぁ、あたしゃもう疲れたよマツコ」
「私はフランダースの犬じゃないぞwww」
「あははは!!でもマツコにもたれて寝たら気持ちよさそー♡」
「その代わり暑苦しいぞデブは」
「あはははははー」
あたしのデブネタで笑ってくれる姫ちゃん。
どこからどう見ても完璧な美少女なんだけど、美少女には美少女なりの悩みがあるんだなぁって、思ったマツコでした、まる
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