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Health Control  作者: ZIRO
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第20話【ん、わかった】

で、あっちゅー間に昼休み。


お弁当食べる前に、トイレに行こうと思って席を立って…


「やばっ!!」


教室の入り口に、見覚えのある人影が見えた。


ちょ、なんでここに!?


見つかりたくないから、咄嗟に巨体を隠すけど


「小松さーん」


か細いくせによく通る声が、あたしを見つけて呼んだ。


「早矢仕先輩…」




渋々廊下に出ると、早矢仕先輩は「ちょっと」って言って、あたしの太い手首をその小さな手で掴むと、教室の前から少し離れた廊下の隅まで来た。


「ももちゃん、どうして昨日部活こなかったの?」


思った通り、昨日あたしがズル休みしたことだった。


あたし的には、もう辞める気だったから、“ズル休み”ってよりは“勝手に辞めた”なんだけど……


いや、今思うと、それって余計にタチ悪くないか?


まぁ、それは置いといて。


今は早矢仕先輩になんと言いわけするか。


「えっと……た、体調…悪くて…」


まだ、酒井先生や早矢仕先輩(マネージャー)からしたら、あたしは陸上部の部員で昨日のはズル休みだから、とりあえず思い付いたテンプレ過ぎる言い訳を、咄嗟にする。


「酒井先生に連絡した?」


あ……。言われて初めて気が付いた。連絡してねぇや。


「いえ…連絡しなきゃいけないの…知らなくて…」


「はぁ…」


早矢仕先輩は、深い溜息をつくと眉間に皺を寄せた。


「知らないとかじゃないでしょ、高校生にもなって。部活休むのに連絡しなきゃいけないのなんてあたりまえでしょ?中学の時どうしてたの?」


子供に諭すように話してた早矢仕先輩の口調が、ちょっとキツくなる。


「すんません」


中学の美術部は入ってたけど行ってませんでした。


なんて言っても言い訳だよなぁ。


どうしよ。ここで「辞めようと思ってたんで」とか言ったら「そう。それじゃしょうがないね」とかなるかな?


ならねーよなw


「陸上部でもマネージャーの仕事ってけっこうあるの。私1人でやれないから酒井先生はももちゃんにマネージャーやってって言ったんだよ。わかる?」


あたしが休むのに連絡しなかった言い訳を考えてると、早矢仕先輩の話の路線が変わる。


いやいや先輩よぉ、酒井先生のあれは絶対『やって』じゃない。『やれ』だ、あれは。


「マネージャーが私1人だと、他の部員の子にも手伝ってもらわないといけなくなるんだよ」


あたしが酒井の理不尽を内心責めているのもお構いなしに、早矢仕先輩は愚痴みたいな話を続ける。


「部員の子たちは、ちょっとでも記録伸ばすためにいっぱい練習しなきゃいけないの。それを邪魔しちゃいけないから、マネージャーの仕事はマネージャーだけでやらないといけないの、本当は」


は?


「先輩、それって…」


「同じ陸上部の仲間なら、みんなに頑張ってもらわなきゃって思うのが普通でしょ?」


「あたしは頑張るなってことですか?」


「え?」


思ったことが、つい口に出た。


早矢仕先輩の言葉が止まる。


「あたしだって頑張って走ってたんです」


「え?何言ってるの、ももちゃん…」


この人を責めたところで、しょうがないのはわかってる。でも……


「あたしだって、自分の“記録”を意識して走ってるんです。なのに何でマネージャーなんですか?」


一度溢れた本音は、止まらない。


「ももちゃん、それは…」


「足の遅いデブは陸上部で走るなってことですか?」


「ちょっと…」


「そういうことですよね?」


口にしょっぱい感じがした。


いつの間にか、涙が流れてた。


でも、それどころじゃなかった。


「あたし、マネージャーやるために陸上部入ったんじゃありません!!」


「ちょっと、ももちゃん!」


自分でも、声が大きくなってるのがわかってた。


でも止められない。


「マネージャーやらされるぐらいなら、あたし、陸上部辞めます!!」


真っ直ぐ、先輩の目を見て言った。


先輩も、あたしの目を真っ直ぐ見ていた。


そのまま、少しだけ無言の時間があった。


通り過ぎる生徒たちがいて、あたしたちを見てるのにやっと気付いた。


「じゃ、失礼します」


あたしは振り返り、2度と先輩の顔を見ないつもりで教室に向かって歩き出した。


()()()()


先輩の、か細いくせによく通る声が、あたしを呼んだ。


「辞めるなら、退部届けちゃんと酒井先生に出しといて下さい」


言い切ると、先輩も後ろを向いて行っちゃった。


先輩の言葉の変化に、感情を読み取れないほどあたしもバカじゃない。


でも、その心の痛みを、怒りで誤魔化した。


1番悪いのは酒井先生だ。


でも


先生の味方をする先輩も


先生と同じぐらい悪い。


そう、頭の中で繰り返して


もやもやしたものを全部なかったことにした。




その放課後


「マツコ、またあとでね!!」


キラリと光る長い睫毛の姫ちゃんが、爽やかに教室から駆け出して行った


輝いてるねー姫ちゃんは


「うん、あとでねー」


それに引き換えマツコは五月病先取りだよ。


高校生活初っ端からこんなブルーでどうしようだよ、ほんと。


さてさて、とりあえず担任から退部届の書き方は教えてもらったから、あとは書いて出すだけだ。


みんなが帰った教室で、1人で退部届を書いていると、教室の外で足音が聞こえた気がした。


気になって見てみても誰もいないので、気にせず退部届を書き上げ、教室を出ようとすると


タタタタッ…


明らかに廊下を走っていく音がした。


誰だ?


お化けが出るにはまだ早いぞ


おそるおそる廊下に顔を出す


まだ、学校には人がいるので、シーンってほど静かじゃないけど、廊下には誰かがいるような感じはなかった。


気を取り直して


いざ、酒井先生との決戦に向かう!!




「ん、わかった」



は?



「えと、先生…?」


「なんだ?」


「あの…もういいんですか?」


「ああ、お疲れ。気をつけて帰れよ」


「はぁ…じゃあ…失礼します」


「ん」



えっとぉ……



先生にペコリとお辞儀して、回れ右して帰る。


なんだ?


そんだけ?


『なんだぁ、せっかくお前頑張ってたのに』


とか


『悪かったな、無理させて』


とか


なんかあるだろう!?


なんだよ『ん、わかった』って


ただの提出物と同じかよ!?


退部届だぞ!?


お前んとこの部員が1人減るんだぞ!!


アッサリし過ぎだろ!?


ふざけんな!!


クソッ!!酒井め!!


マジむかつくわ!!あんにゃろう!!


イライラしながら歩いていたら


「小松さん」


校門を出ようとしたところで、呼び止められる。


振り返ると、早矢仕先輩がいた。


「なんすか?」


わざとぶっきらぼうに答える


「本当に、辞めちゃうの?」


「はぁ、もう届け出しましたし」


「そぅ…」


なんか言いたそうにモジモジしてる先輩の姿が、今のあたしにはイライラしかしない。


「もういいっすか?」


「あ、ごめんなさい。うん、じゃ気をつけてね」


何に?あんたの方がよっぽどいろいろ気をつけた方がよさげだと思うぞ。


「はい、じゃあ失礼します」


そのまま振り返ることなく、あたしは校門を出た。


1人でマネージャーの仕事やるのがツラそうなこと言ってたから、マネージャー仲間がいなくなるのが嫌なんだろうな。


あの人も陸上部の中じゃボッチなんかなぁ。


ま、自業自得だよね


嫌ならあたしみたいに辞めればいいのに


同情だけで残るほど、あたしはお人好しじゃない


悪いけど、先に辞めさせてもらうわ。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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