第19話【一緒に帰ろ】
ガサゴソ、ガサゴソ
「ねえ、お母さん」
どすどすどす、ガチャ
「お母さん、ベルトない?」
「ベルトぉ?、何に使うの?」
「Gパンが落ちるのー」
「えー?だってアンタの…」
バタンッ!!
どすどすどすどすどす…
うるっさいなー、私が寝てんだからもっと静かにドア閉めろよ
ったく、今何時…
「まだ8時前じゃん、もうー!!」
今日は日曜日。
部活も行かないって決めたから、昼まで寝るって決めたのに…
下でお母さんとお姉ちゃんの、なんか言い合いしてる声がうるさくて、目が覚めた。
布団を深くかぶっても、無駄に周波数の高い猪の鳴き声は、耳の奥まで入り込んで来る。
ああっ!!鬱陶しい!!
「じゃあ新しいズボン買ってよ!!」
「アンタバイトしてんでしょ、自分で買いなさいよ」
「はぁ!?バイト始めたばっかりだから、バイト代入るのまだ1ヶ月以上先なんですけど!?」
あ″あ″あ″あ″!!
うるさい!!
猪!!うるさい!!
ああ、くそっ!!
オシッコしたくなってきた!!
お姉ちゃんのうるさいのとオシッコに我慢できなくなったのとで、仕方なくベッドから降りて下に行く。
「行って来まーす」
あたしが下に行くのと同じタイミングで、お姉ちゃんが出かけて行った。
「お姉ちゃんどこ行くの?」
学校以外はほとんど外出しないお姉ちゃんが、日曜日に出かけて行くのが気になって、キッチンで広告見てるお母さんに聞いてみた。
「カラオケだって」
カラオケ?咲が?
あ、そういえば最近カラオケでバイト始めたって言ってたな。
「バイト?」
「ううん、バイト先で出来たお友達と、バイト先にカラオケしに」
「へぇ」
あのお姉ちゃんに、日曜日に遊びに行くような友達ができるとはねー。
バイトかぁ…
「あんたは?今日は部活ないの?」
「ん?…ああ…うん、ないよ」
寝起きでまだ頭がよく回ってないところに、お母さんからの突然の攻撃にたじろぐ。
部活は、行かないって決めた。
決めたけど、まだ辞めてないから、これはズル休みになる。
そのぐらいわかる。
お母さんに聞かれて、一瞬答えに戸惑うぐらいには、罪悪感も感じてるみたいで、自分でも歯切れの悪い返事だって思った。
けど、お母さんは何も聞いてこなかった。
バタンッ
ギシ、ギシ、ギシ…
ドサッ
トイレに行って部屋に戻って、学習机一体型のベッドに登って、ふっ潰す。
やっとうるさいのがいなくなったから、今日はゆっくり寝よう。
「おや?」
と思ったら、スマホにメッセージアプリと着信が来てるっぽい。
着信は知らない番号だった
メッセージアプリは
「リナちゃん?」
中3で仲の良かったリナちゃんからだった。
当時つるんでた仲間で、1番可愛い子。
ていっても、デラックスなあたしとつるむような子だから、姫ちゃんと比べたら普通の子だけど。
彼氏もいたしな、可愛い方に入るんだろうな。
ま、あたしに比べりゃ誰だって美人だ。
卒業式の後、ちょっとやり取りあったけど、4月になってからはほとんど連絡してなかったリナちゃんが、いきなりどうしたんだろ?
リナちゃんのメッセージを開くと、「久しぶり〜最近どうしてる〜」的な話と、リナちゃんが彼氏と別れて、新しい彼氏ができた話。
それから
姫ちゃんに私の携帯番号教えたって話しだった。
てことは、着信は姫ちゃん?
見直すと着信だけじゃなく留守電も入ってた。
『もしもーし、マツコ?姫だよ!!』
うをっ!?メッチャ、テンション高いな!!
『リナちゃんにケー番教えて貰ったよー。マツコ今日部活あったら一緒に行かない?とりま留守電聞いたら連絡してねーバイバーイ』
な!ん!だ!と!!?
どうしよう、え、どうしよう!?
姫ちゃん、あたしが陸上部でボッチになってんのに気付いて気使ってくれてるのかな?
これ断ったら姫ちゃんもあたしと友達やめちゃうかな?
どうしよう、マジで…
数分後
私はベッドに潜り込んで寝てた。
昼まで寝てて気付かなかったフリすることにした。
メッセージアプリだと既読ついちゃうけど、着信なら気付いたこともバレないはずだし。
気付かなかった…なら、しょうがないって思うよね、姫ちゃん。
お母さんに部活ないって嘘ついたことよりも、もっと強い罪悪感を押し殺して、布団の中に蹲った。
月曜日
「マツコおはよう」
「おはよう姫ちゃん」
何事もなかったように、駅のホームで話しかけて来る姫ちゃん。
あたしは罪悪感で、姫ちゃんの真っ直ぐキラキラした目が見れなかった。
「マツコ、昨日部活休んだの?」
「あ、うん、ちょっとね、体調悪くて。ごめんね、せっかく留守電してくれたのに」
「全然!!体調はもういいの?」
「うん、1日寝てたら治った」
「そっか、良かった」
そう言って見せた姫ちゃんの笑顔が、本当に安心してくれたような気がして、物凄く心配させちゃってたのかなって思ったら、少し胸が痛んだ。
そこから、他愛の無い話をしながら、電車に揺られて学校へ向かう。
学校最寄りの駅で降りて、歩きながらまた他愛の無い話。
ほとんどが姫ちゃんから話のネタを振ってくれて、あたしは相槌を打ったり、適当なコメントを返したり、時々ちょっと喋ったり。
そんな、他愛の無い会話。
「マツコ今日部活は?」
学校に着いて、いつも姫ちゃんがつるんでるグループの子達が、姫ちゃんを呼ぶと、姫ちゃんは「ちょっと待って」と言ってから、あたしにそう聞いてきた。
「あ…うーんと…」
もちろん、行くわけない。
でも、姫ちゃんにも誰にもまだ陸上部辞めるって言ってないのと、昨日体調悪くて休んだって嘘のせいで、ちゃんと言えなかった。
「ごめん、ちょっと今日は用事あって…」
「そっかぁ…」
なんで…
なんでそんなに残念そうな顔するの…
胸の痛みが止まらなくなるじゃないか
罪な女だよ、姫ちゃん
その美貌は男だけじゃなく女も狂わせるよ
「ああ、でも、姫ちゃんが部活終わる頃には用事も終わるから、駅で待ってるよ」
「本当!!」
本気で嬉しそうな顔をする姫ちゃん
罪悪感の片隅に、ほんのちょっと安心した気持ちが灯る。
「じゃあ、部活おわったら連絡するね!!」
「お、おう」
あたしの分厚い手を、姫ちゃんの女の子らしい華奢で可愛いい手のひらが強く包み込んで、上下左右にぶんぶん振り回す。
「じゃ!!」
そう言うと、姫ちゃんはクラスの可愛い子グループに入って行った。
どう考えても、今いる可愛い子グループやチア部のアイドルみたいな子たちの方が、姫ちゃんらしい友達だと思うんだけどなぁ。
なんでマツコと帰りたがるん?
謎だなぁ、姫ちゃんて。
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