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Health Control  作者: ZIRO
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第1話【マツコシスターズ】

高校推薦入試合格のお祝いにと買ってもらった新しいスマホを弄りながら、私は大好きなダブルコンソメのポテチを食べていた。


2階建ての家の2階。


お姉ちゃんと相部屋の8畳間は、部屋の両サイドにベッド一体型のそれぞれの机が置いてあるけど、私は部屋の真ん中にごろりと寝転がっていた。小学生のときに買ったベッドは、最近窮屈に感じるようになってきたから、寝るとき以外は入らない。


春から高校生になるってことで、私もSNSとやらをデビューしてみようと思って、巷でよく聞く写真投稿アプリとショート動画アプリをダウンロードしてみた。


使い方がよくわからないまま適当に見てると


ドスンドスン


と、大きな足音が階段を登ってくる。


あれはお姉ちゃんだな。身長185cmで痩せ形のお父さんと、太めだけど身長は150cmぐらいしかないお母さん。二人とも、体重は50kg台で、階段を登る足取りは“トントントン”と軽快。


私たち姉妹は、見事にお父さんの身長と、お母さんの体型を受け継いでしまい、近所でも有名な巨体姉妹に成長していた。『小松』という苗字もあって、とあるデラックスな御方の名前で呼ばれることが多い。


ま、幼稚園児の頃からデブですからね。あまり気にはしてないですけどね。


綺麗になりたいとは……思わないことはないけど……


もう諦めてます(笑)


だって、ここまできたら絶対無理じゃね?


秋の身体測定では、89kgをマークしたので、たぶん今は90kgの大台に乗っていると思う。


高校行く頃には三桁いってたりしてwww


バンッ!!と、豪快に扉を開けたのは、私の2つ歳上の高校2年生、お姉ちゃんの小松咲。こいつですら世間はJKと呼ぶのかと思うと笑えてくるが、4月からは私もJKなんだよな。


扉を開けたそのままで、スゴい顔で仁王立ちしている姉、咲。常にどこかイライラしたような言動の姉だが、なんかいつもと様子が違う。


背は最近私の方が超えたけど、体型は似たような感じ。そんな姉が、猪のように荒い鼻息で突っ立っているのは、ちょっとコワイんですけど。


「百華……」


私の名を呼ぶと、お姉ちゃんは涙目になり、突然その場に泣き崩れた。


ど、どどどどうした!?何があった咲!?


私は、泣き崩れる姉の背に手を置き慰めるように……なぁんて、面倒臭いことはせず、ひたすら泣き続ける姉の高原のような広い広い背中を見つめながら、ダブルコンソメのポテチをむさぼり続けた。


数分後、よく飽きもせず泣き続けられるよなと半ば感心しつつも、私は再びスマホアプリへと視線と意識を戻した。


刹那……


「も゛ぉも゛ぉがぁ~!」


私は姉から、『も゛』の発音を学びました。


いや、そうじゃなくて


涙と鼻水で、ただでさえブサイクな醜い顔を更にぐちゃぐちゃに歪ませて、姉は這いずるように私にしがみついてくるっ!!


「ちょっ…!!お姉ちゃ……怖いんだけどぉ!!」


「あんた、悔しくないの!?デブで悔しくないのぉお!!?」


「はっ?何言ってんだか意味わかんねぇよ。ウチらがデブなのは今に始まったことじゃねぇじゃん」


「なんであんた平気なの!?なんでデブでいて平気なの!?ありえない!!信じらんない!!」


「いやいやいやいや!!お前もデブだろ!!」


てか、そんなこと言ったらあたしの15年、お姉ちゃんなら17年の人生全否定ですけど。


鬱陶しいから部屋を出ようとすると、お姉ちゃんはあたしの服の裾をつかんで逃がそうとしない。


「やめろ!!服が破れる!!放せデブ!!」


「デブはあんたでしょ!!」


「お姉ちゃんの方がデブだろ!!」


「私が中三のときはもっと痩せてたし!!」


「てかなにいきなり怒ってんだよ!!あたしが何か悪いことでもしたかよ!!」


「あんたにゃ関係ないわ!!」


じゃあ、八つ当たりすんなよ……


関係ないなら付き合う必要はない。あたしはお姉ちゃんを振りほどくと、食べかけのポテチとスマホを持って、自分のベッドの梯子を登った。


「関係ないなら絡むなバーカ」


そのままあたしはベッドに寝そべると、またアプリを眺めた。


お姉ちゃんも自分の机の椅子に座ると、溜め息なのか鼻息なのかわからん息を吐いた。


「あんた、高校どこ行くの?」


「熊沢女子」


「女子校かぁ、その方がいいかもね」


突然話が飛んだことも気にせず、あたしはポテチを食べながら、アプリのいい感じの写真にイイネを押しまくる。


「共学なんて行ったってさ、全っ然意味ないしね」


『全っ然』を意味深に強調する咲。


気にせずおススメ写真にイイネしてたら、なんか上の方の変なマークに赤丸で①ってなってたから、ポチッとしてみた。


「男なんてね、体でしか女のこと見てないんだから」


変なマークはダイレクトメッセージらしく、さっきイイネした誰かからのお礼っぽいメッセージだった。


『イイネありがとうございます!!よかったら仲良くしてください(^^)』


ほほう、適当にイイネしまくってるだけなのに、律儀にキチンとお礼してくるなんて、とても良い人だな。


『適当にイイネしまくってただけなので気にしないでください』


と返事した。


「どーせデブなんかモテないんだから。共学行ったって意味ないよ」


なんか、さっきからお姉ちゃんが1人で僻んでるけど、再び赤丸が付くから意識はすぐにそっちに行った。


『momokaちゃんは何歳かな?今日はバレンタインデーだったけど、誰かにチョコあげたりするのかな?』


またイイネのお礼か?て思ったら、さっきの人だった。


『中3です』


とだけ返信した。


てか、今日ってバレンタインデーか。興味ないからすっかり忘れちまってたぜ。お?バレンタインデー?


「お姉ちゃん、誰かにチョコあげたの?」


「あげるわけねぇだろ!!」


あり得ないぐらいキレられた。ほんと、何気なく聞いただけなのに。


「なんだよ!バレンタインだからって誰かにチョコあげなきゃいけない法律でもあんの!?チョコあげないと死刑になんのかよ!!そういうアンタは誰かにあげたのかよ!?」


いや………えと……


「私があげちゃ悪いかよ!?私みたいなキモデブが、あげちゃ、悪いかよ!?私に…好きな…ひと……ズズッ……」


うお、また泣き出すのか!?


最後の方が涙声になってたけど、さっきの突然の号泣とは違って、本当に感情を押し殺したような、なんていうかリアルな泣きというか……


なんかあったん?


気が付くと、お姉ちゃんはまた泣き崩れていた。あたしはチョコあげたかって聞いただけなのに……


え?もしかして、お姉ちゃん好きな人でもいたの?


どれだけ時間が経ったかわからないけど、あたしがBigのポテチを食べ終わる頃、お姉ちゃんの鳴き声…じゃない、泣き声は、小さな嗚咽に変わっていた。


「百華……私……フラれたの」


「ふ~ん……て、フラれた!?お姉ちゃんコクッたの!!?」


勇気あんなぁ!!


「うん……席替えで隣の席になった男子なんだけどさ、今まで男子なんて冷たくしてくるヤツしかいなかったのに、まぁ君は普通に接してくれてさ…」


“まぁ君”ていうんだ。


「私がいけないんだよ、勘違いした私がさ。まぁ君はただ誰にでも優しいだけなんだよ。それを…さ…わた……私……」


また泣き出す……。


けど、もう面倒臭いとは思わなかった。


同じ血統のあたしは、今のお姉ちゃんの気持ちがよくわかるから。あたしも小学生のとき、仲良くなった男の子がいたけど、彼はいわゆるクラス1のお調子者で、からかい半分でも“普通に”話しかけてくれるのが嬉しかった。


当時は、どっちかっていうとイジメみたいな絡みが多かったから



……てか、イジメられてたから



だから、“普通”ってだけで、他の男子と違って優しくしてくれてる気がして、嬉しかった。


私の場合、“好き”って気持ちとは違ったけど、今のお姉ちゃんの言いたいことは、よくわかる。


優しさって、勘違いするよな、うん。


ポテチのBIGで程よく小腹も満たしたし、晩御飯まで昼寝でもするかな。




なんて、いつも通りの夕方を過ごしてたら




「百華……私、痩せる」


どれだけ泣いたかわからないお姉ちゃんは、突然ダイエット宣言をした。

ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。

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