第17話【マネージャー】
最近になって気付いたのですが、どうやら5月の中旬頃に、一瞬だけランキングに入っていたようです。
代表作でもない、拙い箸休め的な作品なのに、なんとも有難い実績をいただき、大変有り難き幸せにございますm(_ _)m
ご覧いただいた皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m
これを糧に、今後も製作に励んでまいりますので、何卒応援の程宜しくお願いします。
ストレッチが終わると、酒井先生に呼ばれた。
「小松、ちょっと」
「…?はい」
「お前、何しに陸上部に来た?」
「え?何って…走ろうと思って」
「そうか。走るだけなら家に帰って自分でやってくれ、ここはスポーツクラブじゃない」
?
先生の言わんとしている意味がわからないけど、たぶん私がみんなよりかなり足が遅いことを言っているんだろうと思った。
「私、頑張ってます」
「そうか」
先生は、何か考えるようにして
「じゃ、外周3周ちゃんと走れ」
あ……
「みんなちゃんと走ってんだ。遅いからって2周目で終わっていいなんて誰が言った?」
淡々と、でもそれがめっちゃ怖く感じる空気で…
「はい、すいませんでした…」
だから、素直に謝った。
「わかったらさっさと行け」
そのまま先生は回れ右して行ってしまった。
遅れちゃ行けないって思って2周で終わらせてたのが、先生にはズルしてたって見えてたんだ。
みんなが次の準備をしているところを横目に見ながら、私は3周目を走り出した。
校門前の坂が死ぬほどキツイ。
格好は走ってるけど、ペースは歩くより遅いと思う。
グランドのフェンス沿いに走り、最初のコーナー。
もう私を抜かして行く人はいない。
ふと気になって、校門の方を振り返ると、1人走ってくる子が見えた。
あれは…
フェンス越しに見ていると、その子は校門からグランドに入り、陸上部の1年生と合流する。
確か、同じクラスの小島さん。出席番号で私のすぐ前だから、名前も覚えてる。
外周を遅れてゴールしたから、ほとんど休憩無しで次の100mダッシュへ移る。やっぱり、みんなより遅い……
私以外にも、ついて行けない子がいたという安心感と
それでも彼女は、必死に付いて行こうとしているっていう姿を目の当たりにしたことで、さっきの先生の言葉の意味が理解できた。
私、サボってたわ
ちょっと気合い入った
走るペースを上げて、頑張って走った。
ペースを上げて気付いたけど、また膝が痛くなるかもって思って、無意識に思ってて、早く走れなかったのかもしれない。
でも、またペースを落とすと酒井先生にサボってるって思われそうだから、頑張って走った。
何も考える力がなくなって来て
自分がどこを走っているのかもわからなくなってきて……
気が付いたら青空が見えていた。
「小松、大丈夫か?」
酒井先生が私の顔を覗き込んでる。
視界の下の方から、マネージャーの先輩も、心配そうな顔をひょこっと出す。
辺りを見渡し、5秒ぐらいして、自分が仰向けに寝ていることに気付いた。
「あれ?」
どうやら私は倒れたらしい。
そのままマネージャー先輩に保健室に連れて行かれた。
「ん〜、ただの貧血だとは思うけど……今朝、朝ごはんは何食べた?」
50歳ぐらいの保健のおばちゃん先生が、いくつか質問したあと言った。
「食べてません、寝坊して遅刻しそうだったので」
「昨日の夕飯は?」
「んー…なんか、肉と野菜の炒めたやつ?」
「他は?」
「味噌汁と…漬け物?」
「主食は食べなかったの?」
「ああ、はい、そういうのは…今んとこ…ちょっと……」
──ダメよ!!アンタ陸上部入ったんでしょ!?走るんなら体力つけなきゃいけないから、ちゃんとご飯も食べなさい──
昨日のお母さんの言葉が頭の中で響く
「陸上部に入って、ダイエットでもしたかったの?」
「…はい」
ストレートに言われ、とっさの言い訳も出なくて、思わず素直に答えた。
「バカモン!!」
「いっ!!」
びっくりした!!
いきなりデカイ声出さないでよ!!
「貴女達はまだまだこれから身体が出来上がっていく歳なんだから、そんな栄養が著しく偏るようなダイエットなんか絶対にしてはいけません!!」
「…はい」
「だいたい、新学期の保健だよりにちゃんと書いてあったはずです。貴女達高校生の年頃の女性の体は、将来子供を産むために今いっっっちばん大事な時期なの。今バランスを崩すと、ちゃんと取り返すのに何年もかかって…」
将来子供を…とか言われてもわかんねぇし、結婚しないかもしんないし、だいたい恋愛もしたことねーのに、んなこと言われたってピンとこねーよ。
てか、だいたいアンタのそのたるんだ腹はなんじゃいな。
そんなこと言ってっから、アンタはデブのまま大人になっちまったんじゃねーのかよ?
あたしゃそうはならないよ、絶対に痩せるんだから!!
だからアンタの言うことなんて聞かないんだからね!!
「あなた聞いてるの?」
「はい…」
聞いてませんでしたー。
てか、おばちゃんの話ってなんでこんなムダに長いんだろ。
おんなじ事ばっかり繰り返すし。
「とにかくもう、炭水化物を抜くような食生活はしてはいけません」
「…はい」
「わかりましたか?」
「はい…」
「本当にもう…今、貴女達の身体は1番大事な時期なんです」
ほらまた同じこと言う。
それさっきも聞いたって。
おばちゃん先生の話がやっと終わって解放されたら、今度は酒井先生に呼ばれた。
同じようなお説教されるのかな…。
「小松、お前マネージャーやれ」
「え?」
マネー…ジャー?
「今日から、ハヤシにくっついてマネージャーの仕事教えてもらえ。わかったな」
え?ちょ…ま…
先生はまだ私が何も返事してないのに、どっか行っちゃった。
仕方がないからハヤシ先輩を探す。
グランドにはいないみたいだ。
どこだろ?
「あ、いたいた、小松さーん」
どこからともなく私を呼ぶ声が聞こえた。
振り返ると、三階の校舎の窓から手を振る、文化系デカ眼鏡先輩。
「そっち行くからまっててー」
数分後、校舎の陰から駆けてくるハヤシ先輩。
陸上部らしからぬ、いわゆる女の子走りで。
「先生から、小松さんが1年生のマネージャーやるから、いろいろ教えてあげてって言われて保健室いったんだけど、いつの間にか保健室からいなくなっちゃってたから探してたよー」
「はぁ、そうっすかぁ」
先生、私がまだ何も聞いてない時から私がマネージャーやるの勝手に決めてたのか
「ついて来て」
ハヤシ先輩に着いて校舎に入る。
てか、私はマネージャーしに陸上部に入ったわけじゃない。
ダイエットのために走ろうと思って陸上部入ったんだ。
この、文化系デカ眼鏡先輩がまともに走ってるとこなんて、見たことない。
マネージャーは、本当にただのマネージャーなんだろうな。
「こっちだよー」
先輩がだいぶ私に慣れて来たのか、喋り方がフレンドリーになってきた。
先輩に着いて入ったのは、パソコン室。
そのうちの一台が、既に立ち上がっていた。
「覚えておいてね、この25番が陸上部で使っていいパソコンだから。ほかのはダメだよ」
ダメだよって言って指で✖️を作る仕草が、ムダにあざと可愛い。
私と身長差があるから上目遣いになって、完全に萌えキャラになってる。
やっぱ小柄ってだけで可愛く見えるのは、得だよな。ゆりちゃんどうしてっかな。
パソコンには、陸上部1年生の外周タイムと、100mのタイムを記録したデータが映し出されている。
私の欄は『未測定』になってた。
「このデータから、短距離と長距離に分けて、来週からの種目別練習用の資料を作るの。まぁ、データごとに振り分けるだけだから簡単なんだけど…」
と言って先輩は器用にキーボードを叩き始めた。
なぁーんかなー
先輩はパソコン作業をしながら、マネージャーの仕事の話をあれこれと話してくれた。
こうやってデータ編集したり、みんなのユニフォームを洗ったり、いろいろとやることはあるらしい。
去年の夏までは先輩ともう1人いたらしいけど、その人は辞めてしまったとか。
ふーん
興味ないけど。
走れないなら陸上部にいる意味ないし
辞めようかなぁ。
その日は先輩に着いていろいろ手伝った
2人でやっててもけっこう時間のかかる作業で、気が付けば部活の終わる時間になってた。
てか、先輩はこれを、去年の夏からずっと1人でやってたのか。
私なら無理だ…
やっぱ辞めよ。
ご閲覧いただきありがとうございます。誤字・脱字、矛盾点等ありましたら、ご指摘頂けると幸いです。




