第15話【そっか、あたし……】
今日は朝から雨。
月曜日から雨とか萎えるわぁ。
昨日の日曜日は、久しぶりに公園に行ったけど、先生には会えなかった。
だから、より一層気分が重い。
傘を畳んで改札を通り、ホームへ向かう階段を登ろうとしたところで、肩をポンッと叩かれる。
「やあ姫ちゃん、おはよう」
「おはよ、マツコ」
待ち合わせをしているわけじゃないけど、同じ中学から行くあたしと姫ちゃんは、乗り込む駅も同じで、毎日同じ電車に乗る。
「どしたの?なんか顔色悪いよ」
ポンと、あたしの肩に置いた手をそのままに……ていうか、あたしを支えにして立っているように、姫ちゃんはなんかフラフラしてる。
「大丈夫、今日までだから」
「ん?」
姫ちゃん、よくわからないよそれ。あたしの頭の中は『?』だらけだよ。
「身体測定かぁ」
電車を待つ人の列に並んでいる間に、姫ちゃんから今日は身体測定だと知らされる。
いや、知ってなきゃいけないんだけどねw
学校行事なんてあんまり興味ないからwww
ていうか、
「なんで身体測定だからって、フラフラになるの?」
瞬間、姫ちゃんのクリクリした可愛らしい大きな瞳が、信じられない光景を見たかのように、更に大きく開いた。
「マツコは……気にしないの?てか、マツコこそ気にしないの?」
「なにを?」
「身体測定だよ!?気にならないの!?」
うをぉい姫!!
あんなにフラフラしてたのになんだその勢いは!?
「私さ、最近足とか太くなった気がしてさ、体重計ったら中学の時より2kgも太ってたんだよ」
「……細いじゃん、姫ちゃん」
姫ちゃんの、膝上まで手繰りあげたスカートから見える太ももを思わず見つめる。
ま、あたしと比べたら誰だって細いがなwwwwww
「ええ!?全っ然太いって!!ダイコンだよ、ダイコン!!」
「姫ちゃんでダイコンならあたしゃカボチャかなんかかい」
「いいんだよマツコは、全部太いからバランスいいんだよ」
「それは誉めてるのかい?」
「うん、もうめっちゃ誉めてるww」
とりあえず、姫ちゃんはフラフラしてたのが元気になった。
この美少女が、身体測定のために3日ぐらい水と野菜しか食べてないらしい。
「マヨネーズもドレッシングもなしでキャベツが食べれるようになったww」
と、姫ちゃん。
下校の時に、姫ちゃんチラ見してる他校の男子が知ったら、引くかもしんないw
しかしなんつーか、気合いが全然違うな。中学の終わり頃、お姉ちゃんとダイエットしてたけど、全然甘かったな。
「88.1kgか。中学んときの身体測定よりは微妙に減ったけど…」
記載された記録に一人で呟く。
中3の身体測定から、マイナス1kgか。
姫ちゃん体型ならともかく、あたしにとっちゃ誤差だなw
ダイエットしてたときはもうちょっと減ってたような感覚があるから、リバウンドしたかな。
「マツコぉ~」
姫ちゃんが泣きそうな顔でフラフラとやって来た。
「増えたぁ!!」
見せてもらうと、そこにはあたしの半分以下の数字。
「あんなに頑張ったのに、中学んときより0.6kgも増えてたよぉ(泣)」
「0.6kgなんて、あたしならご飯食べただけでそんぐらい増えるよww」
「ええ!でも3日も頑張ったんだよぉ!なのになんで去年より増えてるんだぁ!」
う~ん。あたしからすりゃ違う人種かってぐらい綺麗なスタイルの姫ちゃんが、たった600gでこんなに落ち込んでるのに、あたしゃどうすりゃいいんだい?
かと思いきや
「マツコ見て見て!!胸ちょっとおっきくなった!!」
7mm大きくなったバストに喜ぶ姫ちゃん。
「その分、体重増えたんじゃない?」
「ええ!?そうなの!?これで0.6kgも増えたの!?」
「うん、たぶんそうだよ。気にしなくていいよ」
バスト7mmが何gあるかしらんけど、こうでも言っとかないと、この子またこれ以上断食しかねない気がした。
女子校の身体測定は、実にやかましい。
増えたの減ったのどうやってダイエットしたの、明日から頑張らなきゃだのもう死にたいだの。
男子がいないせいか、かなり卑猥な言葉も飛び交う。
ま、あたしぐらいになると、そんな小さい数字でメンタルブレたりしねぇけどな!
とりあえず、ダイエットの成果とリバウンドが確認できたわけだが……
どうしよっかなぁ
姫ちゃん見てると、あたしもダイエットしなきゃと思う反面、16年この体型で生きてきて、今更って感じがあるのも半分。
ま、そんな考え事も、お弁当のカラアゲを食べる頃には綺麗サッパリ消えてるわけだがねwwww
「ただいまぁ」
家に帰ると、シーンとして返事がない。
自転車がなかったからお母さんは買い物かなんかだろうけど、玄関にはお姉ちゃんの靴がある。
二階に上がって部屋に入ると、お姉ちゃんはブレザーを脱ぎ捨てた制服姿のまま寝てた。
その寝姿に、ちょっと違和感を感じた。
「あれ?お姉ちゃん痩せた?」
そう、なんか全体的にボリュームが縮んでるんだ。
そういえば、最近お姉ちゃんがご飯のおかわりしてるとこ、見てないかも。
いや、待てよ……
ここ最近、一緒に夕飯の食卓についてないぞ。てか夕飯の時間に家にいないな。
そうだ、最近帰りがずいぶん遅いから、あとから一人で食べてるわ。
そんな事を考えながらなんとなくお姉ちゃんの寝姿を見たら、お姉ちゃんの右手元に雑誌が引っ掛かってるのを見つけた。
そういえば、春休みぐらいから、雑誌をよく読むようになったな。
それまで本を読んでるとこなんて見たことなかったのに。
表紙を見ると、陸上選手みたいな体型のスポブラ姿の女の人がデッカく載ってる。ダイエット系の雑誌かな?
『ダイエット効果はどう違う!?ウォーキング×ジョギング』
って書いてあるから、たぶんそうだ。
少し縮んだお姉ちゃんの寝姿に、ふと2ヶ月前の事を思い出す。
──あんた、悔しくないの!?デブで悔しくないのぉお──
バレンタインの夜、クラスの優しい男の子に告白してフラれたお姉ちゃん。
好きだった人の好きな女の子は、誰もが羨む極細の女の子だった。
──あんなに頑張ったのに、中学んときより0.6kgも増えてたよぉ──
思い出した2ヶ月前のことに、今日の姫ちゃんの様子が重なる。
体型ひとつで、人生ってそんなに大変なことになるのか?
ずっとデブで生きてきて、ほとんど気にしたことないから、デブのままでも楽しく生きていけると思ってた。
恋愛とか、そんなのは遠い世界の話だと思ってたし、女子高に行った今となっては、男子との出会いなんてほとんど無いわけだし。
何故かわかんないけど、ダイエットのこと考えると、恋愛のことを考え出す。
恋愛のことを考えると、自分のことよりもお姉ちゃんやユリちゃんのことを思い出すけど……
芝生の丘に立つ、日焼けの黒い肌に、眩しく輝く白い歯と白いジャージ姿……
先生は、どんな人が好みかな?
彼女とか、いるのかな……
先生……会いたい………
………
いや、今は会いたくない!!
なんか、急にデブのまま会うのが怖くなった。
毎日走ってるって言ってた先生に、なかなか会えなかった時、考えないようにしてたことがあった。
先生に会えなかった日は、いつも頭の中で誰かが言う。
──お前、避けられてんだよ──
そんなことない!!
そいつが囁くたびに、そいつを頭の一番奥に閉じ込めて、その可能性をゼロにしてた。
でも、毎日走ってるって言ってた先生が、1週間の半分もいなかったのは……あたしを避けてたからかもしれない。
あたしは目立つから、すぐバレる。
先生があたしを避けてる理由が、あたしがデブだからだったら……
ただでさえ走って汗かいてるのに、暑苦しいデブに会いたくないって思ってるんだったら……
今のままじゃ会えない…!!
会いたいけど、絶対会えない。
じゃあ、痩せよう…!!
先生に会うために、絶対痩せよう!!
姫ちゃんぐらい痩せよう!!
姫ちゃんぐらい痩せたら、そしたら、先生に会いに行こう。
先生に会えたら
会えたら……
……
あ……
そっか……
今、気が付いた。
そっか、あたし…
うん、そうだ。
先生に会えたら、この気持ちを伝えよう。
あたし、先生のこと好きだ。
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